前回、この小説のレビューを書いた。
家族を恐怖で支配し、喜ぶボイントン夫人という人物が、被害者であり影の主役の話だった。
今回ご紹介するこのミステリーは、その男性版ともいえる話だ。
「ポアロのクリスマス」!
ポアロのクリスマスに出てくる、シメオン・リーという男性も、ボイントン夫人に匹敵するくらい家族を支配している。
そして支配者シメオンも、ボイントン夫人と同じく、被害者になってしまうのだ。
クリスティ、油の乗り切った時代の作品、いってみよ!
Contents
アガサクリスティ(ポアロ)「ポアロのクリスマス」 あらすじ
老大富豪、シメオン・リーは、クリスマスに息子たちを集めて、パーティを行おうとしていた。
年に1度のクリスマスに、普段離れている家族が集まって、楽しく過ごすのは欧米のならい。
だがシメオン・リーの狙いは違っていた。
息子たちを、お金のことで憎しみ合わせ、争わせることが目的だったのだ!
長い間合っていなかった、孫のピラールまでわざわざ呼び寄せ、ふらりと立ち寄った旧友の息子も強引にパーティに参加させる。
そんないわくありげなクリスマスに、惨劇が起こった。
シメオン・リー氏が殺されたのだ!
人間とは思えない叫び声、部屋は血まみれ、家具は散乱・・。
そんな凄惨な現場に、首を切られて冷たく横たわるシメオン。
だがその部屋の窓やドアには鍵がかかっており、密室だった。
シメオンを殺したのは、リー一族の誰かなのか?
突然入ってきた孫娘と、旧友の友人は一体何者なのか?
クリスマスの惨劇にポアロが挑む!
アガサクリスティ(ポアロ) 「ポアロのクリスマス」 感想
「そして誰もいなくなった」は、クリスティの特大ホームランと言うべき作品だが、この「ポアロのクリスマス」はその直前に書かれた作品。
クリスティ、キレッキレ時代の作品なのだ。
そんな「ポアロのクリスマス」の見どころを、じっくりみていこう。
ポアロのクリスマス 見どころ
ポアロのクリスマスは、密室殺人なのだが、実は密室のトリックよりも、家族の人間関係の理解が大事。
まず物語を理解するのに、一番大事な家族構成から説明しよう。
この事件の大きな特徴は、リー家全員に動機があることだ。
長男アルフレッドは、長い間父親に頭を押さえられており、大人しいが不満は多い。
妻のリディアも同様だ。
次男ジョージは、仕送りの額を減額すると脅されて激怒。
20歳も年下の妻・マグダリーンは浪費家で、にっちもさっちもいってない状態。
三男デヴィッドは母親っ子。
シメオン氏が、死んだ母親にした陰険な仕打ちを忘れていない。
妻のヒルダは、そんな夫をハラハラして見守っているが、正義感を発揮して殺すタイプだ。
末っ子のハリーは、遺産を減らされるといわれ(放蕩息子ゆえ仕方ない)これまた激怒。
おまけに、ひょんなことから参加している、孫娘・ピラールも、旧友の息子・スティーブンも冒頭から怪しさ満開で、こう思わせてくれる。
家族以外の人間に目を向けてみても、シメオンの付き添人・ホーベリーは、家の中を立ち聞きしながら嗅ぎまわるタイプで、油断ならない。
こう見てると、唯一信頼できるのは、40年来リー家に仕えている執事・トレッシリアンくらいなもんである。
そんな感じで、混乱を極めるリー家のクリスマスだが、ポアロが言うポイントはこれだ。
家族の複雑な関係も、感情のもつれをほぐすのも、まずはそこから。
密室の謎は、その後解けばいい・・・というのだ。
のんきだと思うが、案外この方針は的を得ている。
密室の謎は、意外とあっさり解けるので、とにかく「ポアロのクリスマス」は、「フーダニット?」に徹しよう!
アガサクリスティ(ポアロ)「ポアロのクリスマス」まとめ
ネコ缶評価
これ、久しぶりの満点じゃなかろうか。
非の打ちどころが全然ないのだ。
会話の巧みさ、登場人物のキャラの立ち具合もいいが、いつものように女性が本当に魅力的。
「クリスマスにはクリスティ」と言われるそうだが、「いつでもどこでもクリスティ」になる、そんな1冊だ。
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