アガサクリスティは、問題を抱えた家族の話がうまいという事は何度も述べた。
これなんか典型的だ。
「死との約束」
これもなかなかいい
「ポアロのクリスマス」
この2冊は、ド派手な家族問題(ものすごいパワーワード)を土台にした作品だ。
今回ご紹介する作品も、家族をテーマにしているが、こんな印象を受ける。
「そこはかとなく、静かに漂う異常な感じ」
その作品とはこちらだ
「ねじれた家」
「書斎の死体」や「予告殺人」のような派手なつかみもなく、静かに、ただ淡々と何か異様なものを抱えたまま、物語が進んでいく・・・。
「書斎の死体」詳しくはこちらから
「予告殺人」詳しくはこちらから
そんな印象を受けるのだ。
ちょっと不気味な印象もある「ねじれた家」みていこうか。
アガサクリスティ 「ねじれた家」 あらすじ
チャールズ・ヘイワードとソフィアは、仲良しな恋人同士。
そろそろ結婚も・・・と考える中、ソフィアの祖父、アリスタイド・レオニデス氏が殺された。
何者かが、レオニデス氏の糖尿病の飲み薬と目薬を、入れ替えていたのだ。
疑惑は30歳も年下の後妻、ブレンダと、この家の家庭教師、ローレンス・ブラウンに集まる。
なぜならこの2人は、不倫の関係だったので、2人で示し合わせて殺したのだという疑惑が持ち上がったのだ。
だがどうも、この2人にはどう見てもそんな度胸はないうえ、決定的な証拠もない。
そして何よりレオニデス氏の遺言は、すでに公表されている。
そのうえ生前贈与的なことも済んでおり、レオニデス氏が死んで得をする人間が、誰もいないのだ。
捜査が行き詰まってきた時、新しい遺言状が見つかる。
なんとそこにはこんなことが書かれていた。
これが殺人の原因なのか?
複雑な心境になる、ソフィアの恋人チャールズ・・・。
という、レオニデスの孫・ジョセフィンは、本当に真犯人を知っているのか?
残忍なところがたくさんあって、それもみんな違うの・・・
ソフィアが言う「一家の残忍さ」とは何なのか?
大富豪の家族が住む「ねじれた家」の秘密は?
アガサクリスティ「ねじれた家」 感想
複雑なところが全く無く、時系列をメモしないと解らないわけでもない。
非常に読みやすい話。
そしてドラマチックで派手な事件もなく、とにかく前半は、ひたすら静かに物語が進んでいくという印象を受ける作品だ。
レオニデス家の家族の物語か?と錯覚するくらいだ
そのうえ読み進めていくと、このことに気づく。
レオニデスが死んで、トクをする人間がいないのだ。
表にしてみよう。
怪しいところは? | 事件との関係は?他には? | |
ソフィア・レオニデス(孫) | 遺産の大半は彼女がもらう | 事件があったときは海外にいた |
ブレンダ(後妻) | ・家庭教師のローレンスと恋仲 ・レオニデスに薬の注射をした |
殺人に使われた薬の処分をしていない(犯人なら処分しているはず?) |
ロジャー(長男) | 経営しているレストランが倒産寸前 | ・もともと経営に向いていないことは自分で解っていたうえ、やめようと思っていた ・経営立て直し用の金銭は十分もらえた |
クレメンシイ(ロジャーの妻) | ロジャーと、この家を逃げ出そうとしていた | 冷酷・冷静な性格だが決定的な証拠も動機もない |
フィリップ(次男) | 父親がロジャーばかりかわいがることへの不満 | ・特になし ・レオニデス氏から金銭は十分もらっていた。 |
マグダ(フィリップの妻) | 出演している芝居への資金援助をしてもらえない | フィリップへの十分な金銭でやっていける |
ローレンス・ブラウン(家庭教師) | ブレンダの恋人 | 決定的な証拠が何もない |
それぞれに、なんとなく怪しいところはあるが、決定打に欠けるし、証拠も全くない。
・・・・と考えてしまうところから「ねじれた家」のミステリーが始まるのだ。
今回は、チャールズの父・ヘイワード副総監が、犯人に関するとても良いヒントを沢山出してくれている。
「殺人犯人は、普通の人間にはある、ブレーキがかからないんだ」
「犯罪者には、一種の見栄というものが必ずある。
罪を犯した後でも、捕まるのが怖いくせに、空威張りしたり自慢したり。
自分は捕まることがないと、たかをくくっているのだ」「犯行を犯した後は、ひどくおしゃべりになり、事件を他人事として議論をしたり意見を交換したりする」
「ねじれた家」P180~184
「ねじれた家」の犯人は、このヘイワードの言葉を見事に体現してくれている。
それは一体だれなのか?心して読んでいこう!
それにしてもこのスピリッツ、クリスティの作品全般を貫いてるような気がせーへん?
アガサクリスティ「ねじれた家」 まとめ
ネコ缶評価
とても静かな物語。
淡々と話が進んでいく。
何かを秘めた、静かな湖のような物語だ。
結末は賛否両論あるかもしれない。
犯人は「可愛そうな人間」だったのだと、読了後にみんな思うだろう。
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