「鳥」という映画がある。
言わずと知れたヒッチコックの名作なのだが、大群の鳥にジワジワ襲われるってとてつもなく怖い。
今回、同じように鳥をうまく演出に使ったミステリーをご紹介しよう。
それはこちら
「乱鴉の島」
烏が人間を攻撃してくるわけではないのだが、バックで物語を(怖めに)盛り上げてくれる。
早速みていこう!
Contents
有栖川有栖(作家アリスシリーズ)「乱鴉の島」 あらすじ

仕事の疲れをいやすべく、古い友人が住むという鳥島に旅行することにした火村とアリス。
ところが船頭のミスで、到着したのは隣の黒根島。
通称「烏島」だった。
気が付いたときには時すでに遅く、火村とアリスは、この島に滞在を余儀なくされてしまう。
幸い、無人島に思えた烏島にも家はあり、2人は1つの家に宿を求める。
そこはなんと、アリスも尊敬する文豪・海老原瞬の別荘だった。
文豪の存在に緊張するアリスだったが、この家の様子がおかしい。
無人島に近い島なのに、その家には子供2人と管理人夫婦を含む計10人もの人間(島の住民ではない)がいたのだ。
海老原文学ファンの集まりという事だが、だとしたらなぜ子供?
なぜこんな島で?
・・という疑問をぬぐい切れないまま、なんとお客がもう1人増える。
次々に新しいビジネスを展開し成功させる、カリスマ起業家・初芝真路がなんとヘリコプターで飛び入り参加したのだ。
しかも初芝は、海老原には目もくれず、泊り客の医者・藤井に熱心に頼みごとをしている・・・。
この小さな島・烏島で一体何が行われているのか?
そしてその疑問が解けないまま、連続殺人事件が幕を開けていく・・・
有栖川有栖(作家アリスシリーズ)「乱鴉の島」 感想

全体で364ページ(新潮社ハード版で)。
かなりのボリュームのある作品だ。
内容はこの2つの謎がメインテーマ
ここを詳しくみていこう。
「乱鴉の島」 謎① 島に集まっている人の目的は何か。

ではまず一つ目の謎からみていこう。
烏島は超小さな島で、作家の海老原他、島民もほとんどいなさそうだ。
そこに大人8人と子供2人がいる。
海老原と管理人の木崎夫妻はともかく、後はみんなわざわざ来た人たちだ。
一体何が目的で?
文豪・海老原のファンの集
海老原を囲んでの会
という名目にはなっているが、だったらなぜもっと集まりやすい場所(都心の居酒屋やホテル)で集まらないのか?
文学を語るという名目なら、なぜ全く関係のない子供を連れてきているのか。
そしてその子供たちは、集まった大人の娘や息子でもない。
しかもこの子供たちを、なぜか大人たちがやたらと仲良くさせようとしている。
途中でヒントらしきものは投げかけられる。
そのヒントは、核心を「かすった」手ごたえはあるのだが、ちょっとそれた感じ。
「乱鴉の島」 謎② 殺人事件の犯人は誰?

謎の2つ目はモチロン殺人事件だ。
被害者は2人出る。
まず1人目の被害者は、ホリエモンを思わせる、少々パフォーマンスが激しいカリスマ起業家・初芝真路。
そして、なぜこの人が殺されるのかという疑問がぬぐえない、別荘管理人・木崎だ。
カリスマ起業家・初芝真路の場合

カリスマ起業家・初芝は、光も強いが影も強い人物。
殺したいと思う人がいても、おかしくはないだろう。
だがこの疑問が付きまとう。
「なぜここで?わざわざ?」
この無人島に、彼を殺しにわざわざ泳いでくる人間はいるはずもない。
だがこの島の人物は、藤井以外彼と面識がなく、動機がない・・・・。
そして藤井もアリバイがある・・・・。
ここで行き詰ってしまうのだ。
初芝の死には、まだ疑問が付きまとう。
彼は崖からの転落死。
放っておけば事故死扱いになったかもしれないのに、誰かがわざわざ洞窟に引っ張り込んで、他殺という事をアピールしている。
一体なぜ?
初芝の殺人は「犯人の動機を徹底的に想像すること」がキーポイント。
そして自殺に見せかけなかった謎も、よーく考えてみよう!
管理人・木崎の場合

こちらも大きな謎。
確かに木崎は問題の多い人物(ギャンブルと女が好き)ではある。
なのでそっち方面からのアプロ―チも大事だが、木崎は「いつ殺されたのか?」という事が最大の謎になってくる。
木崎の場合も明かな他殺なので、当然島にいる人たちが疑われる。
だが今回も、みんなそれなりのアリバイがあって、いつだれが動いたのかが皆目わからないのだ。
これは時系列が大事になってくるので、自分なりのメモを取っておこう。
ポイントは木崎がギャンブル好きな事。
ギャンブル好きは、賭け事を誘われたら絶対に断らない。
ここを抑えておこう
有栖川有栖(作家アリスシリーズ)「乱鴉の島」 まとめ

ネコ缶評価
同時進行する2つの謎は、有栖川氏の長編での得意技。
でも今回は、その2つともが少々弱い。
「うーん・・・ちょっとセンチメンタルすぎて共感が難しい(有栖川氏によくある)」
「そのエピソードは、ちょっと唐突過ぎひんか?伏線が欲しかった」
と、ラストで軽くがっかりするのだ。
とはいえ、これだけのページ数を、ハラハラと一気読みさせてしまうのはさすが。
ファンは読んでおいて損はないだろう。