科学者・湯川センセイの、確固たる信念はこれだ。
科学を悪に使ってはいけない
マッドサイエンティストという言葉がある。
最高の科学技術を司ることができる人間は、その技術で非人道的なことも可能にしてしまう・・・ということだ。
そして悲しいことに本人だけではなく、その技術を使った他人が悪用してしまう・・・事もある。
その湯川(と、誠実な科学者の)信念が、見事に昇華された作品が今回ご紹介するこちらだ。
「禁断の魔術」
詳しくみていこう。
Contents
東野圭吾(ガリレオシリーズ)「禁断の魔術」あらすじ
フリーライター・長岡が何者かに殺された。
長岡は最近、スーパー・テクノポリスという開発問題を極秘で取材しており、その件で何かあったのかと思われた。
時を同じくして、湯川の後輩・古芝が、せっかく合格した帝都大学を姉が死んだという理由で中退。
古芝は高校時代に、湯川に「レールガン」という装置を教えてもらったことがあり、その時からの付き合いだった。
その後古芝は、町の工場で働き始める。
持ち前の優秀さで、熱心に仕事を覚えたが、突如失踪。
古芝はどこに行ったのだろうか?
そしてなぜか、湯川に教えてもらって作ったレールガンも、高校から無くなっていた。
長岡の事件に何か関係があるのだろうか?
そして、スーパーテクノポリスはどうなるのだろうか?
すべてのピースが合わさった時、明らかになる哀しい真相とは・・・
東野圭吾(ガリレオシリーズ)「禁断の魔術」感想
「禁断の魔術」は、もともとは「猛射つ(うつ)」という短編だった。
ここには「レールガン」という、素人には全く解らないが、ド派手な科学装置が出てくる。
これは膨らませがいがあったろう。そして人気の作品だったに違いない。
では詳しい内容をみていこう。
メインテーマは湯川(真面目な科学者)の信念
話は大きく3つの柱からなる。
- スーパー・テクノポリス計画と、それにまつわるいざこざ
- フリーライター・長岡殺人事件
- 湯川と古芝のかかわり
話の進め方は、パズルの1ピースを1つ1つ埋めていくかのような感じ。
話もポンポン飛んでいるし、突発的なエピソードも入ってくる。
と、最初は首をかしげることも多いかもしれない。
だがそれがラストに、1つの絵として完成するのだ。
その時なるほど~と思うだろう。
さて、この3つの柱で一番のメインはなんといっても3番目。
湯川と古芝のかかわりだ。
年の離れた2人の友情を通して、これを訴えている。
「科学者としての在り方」
これは「ガリレオの苦悩・攪乱す(みだす)・操縦る(あやつる)」でも再三訴えられてきた。
そして「禁断の魔術」でも、湯川や古芝の父(この人も科学者)が何度も強く訴えている。
科学技術は(略)良いことだけに使われるわけではない。
要は扱う人間の心次第。
邪悪な人間の手にかかれば「禁断の魔術」になる。
科学者は常にそのことを忘れてはならない
「禁断の魔術」p178
また、古芝の父も科学者だったが、こんな事を言っている。
地雷は核兵器と並んで、科学者が作った最低最悪の代物である。
科学技術によって人間を傷つけたり、生命を脅かしたりすることは許されない。
「禁断の魔術」p289~290
そしてダメ押しのこの一言だ。
「科学を制する者は世界を制す」
「禁断の魔術」p291
ここまで読んでくださった方にはすぐピンとくるだろうが、もちろん裏の意味も多分にある。
だが決して堕ちないで欲しい、優れた科学者は優れた人間性を持ってほしい・・・
という、湯川と古芝の父(そしておそらく、東野圭吾をはじめとする誠実な科学者)の願いなのだろう。
これがおそらく「禁断の魔術」最大のテーマなのだ。
「面クリ型」は12回終了のドラマを連想させるし、「パズル型」は映画にもってこいだろう。
東野作品が映画化されやすい理由が解るな。(最初から狙ってるのかもやけど)
マニアな楽しみもある
ガリレオシリーズも、早8作目。
作品が増えてくると、こんな楽しみもある。
そう、こういうことが起こるのだ。
「以前の作品に出てきた何かを、登場人物が言う」
「以前の作品の登場人物が出てくる」
モチロン解らなくてもなんら問題はない。
ただの隠れキャラ的な存在だ。
今回は2か所発見した。
以前人の頭が燃え上がる事件があって、それを先生がレーザー光線を使ったものだと見抜いたって・・・
「禁断の魔術」p74
↑これ「探偵ガリレオ」の「燃焼る(もえる)」の話よな。
また、「真夏の方程式」で出てきた、この人も登場。
机を挟んで向き合ている相手は、今回の事件の実質的な責任者である、管理官の多々良だ。
p140
自然と開発の共存、殺人事件を舞台にして、科学の重要性を話に据えたのは「真夏の方程式」もそうやったな。
ちなみに、終盤への盛り上げ方は「使命と魂のリミット」に似てる。
皆さんも探してみてな~。
東野圭吾(ガリレオシリーズ)「禁断の魔術」まとめ
ネコ缶評価
長岡殺人事件も開発問題も、メインテーマを盛り上げるための小道具のように思える。
それくらい湯川の訴えが強いのだ。
そのために少々終わり方が尻切れトンボになったり、場面展開がありすぎて目まぐるしいほどだった。
勧善懲悪ではなく、ハッピーエンドでもないが、最悪の事態は避けられた・・・というところが妙にリアル。
でもなんだか、ミステリーというより「魂を揺さぶられる」作品だったと思う。
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