「本格派」「ホラー派」「ユーモア派」「鉄道派」・・・
ミステリーは、実はいろいろジャンルが分かれている気がする。
ネコ缶が好きなのはもちろん「本格派」。
だが最近年なのか、本格派が疲れる時がある。
そんな時はユーモア派や。
最近疲れ気味なこともあり、「2018年このミステリーがすごい・海外部門1位」だったフロストシリーズをイチから読んでみることにした。
その結果はこう出た。
「オジサン刑事ものは、どうしてこうも面白いのか!」
詳しくみていこう!
Contents
R・D・ウィングフィールド(フロストシリーズ)「クリスマスのフロスト」あらすじ
ロンドン警察署から、片田舎のデントン警察署に配属になったバーナード・クライヴ。
彼は警察長の甥っ子。
若いがエリート刑事だった。
早い出世も叔父の七光りと思われたくないバーナード。
デントンで一旗揚げて、出世してやろうと野望に燃えていた。
バーナードがデントン警察署に来たちょうどその日、娼婦のジョーン・アップヒルの娘、トレーシーが行方不明になるという事件が起こる。
張り切るバーナード。
だがペアを組まされた上司は下品でだらしなく、上司からもにらまれっぱなしなことで有名なフロスト警部。
彼は、重要な会議もすぐに忘れるうえ、下ネタも大好きだったので、マレット警視からにらまれていた。
深夜までフロストに振り回されるバーナードの運命は・・・?
R・D・ウィングフィールド(フロストシリーズ)「クリスマスのフロスト」感想
読み始めた時、フロストの人物像はこのキャラを思い出させた。
「大貫警部」(赤川次郎)
ネコ缶が小学生の時に読んでいたミステリーだが、この大貫とフロストはキャラがよく似ている。
- 下品で厚かましくて、決してイケメンではないし身なりにも構わない中年男性。
- おいおいとツッコミたくなるような、こすっからいことを平気でやる。
- 奥さんはかつていたが、今はいない(大貫は逃げられたらしいが、フロストは尻にひかれてた。その後死別)
唯一の違いはフロストは案外有能で、鋭いカンを持つ人情家だという事。
味方してくれる人も署内に多いという事だろうか。
読みやすいミステリーで、タイトルがすべて四文字熟語なんでこちらも読んでみてくださいませ。
閑話休題
さて海外の大貫警部ことフロスト。
500ページもある、彼のデビュー作品を詳しくみていこう。
フロスト感想1 主要な事件と小ネタな事件
「クリスマスのフロスト」の主要な事件はこれだ。
トレイシー行方不明事件。
真冬のイギリスということもあり(タイトルからして季節が解る)血眼になって探す捜査員。
捜査しているうちに、30年前の現金輸送車襲撃未解決事件につながり、殺人事件まで勃発。
そしてラストでは、2つの事件が同時に解決・・・という流れになる
これだけ見ていると、こう言いたくなる人もいるかもしれない。
だが、ネコ缶は声を大にしてこう言いたい。
小ネタ的な事件が多い!多すぎる!!
主要な事件とは別に、これくらいの小さな事件が4日間のうちに次々起こる。
- 銀行に真夜中に正面玄関から侵入しようとする事件が連発(主要な事件にはあまり関係がない)
- 実は村に児童ポルノがはびこっていた(主要な事件にほとんど関係ない)
- アレン警部倒れる(が、わりとすぐ復活)
- めったやたらとデントン署に来ていた浮浪者が死体で見つかる
- フロストのデスクから小銭が盗まれる(4とも少し関係してる、意外と深みのある事件)
ちなみに「クリスマスのフロスト」時系列は、日曜日から木曜日までの4日間。
だが木曜日は、たった3ページしかない。
ということは、月曜日から水曜日までの3日間で、これだけのことが日々起こっているのだ。
ここには書かなかったが、フロストは締め切りの過ぎた書類仕事を結構ため込んだりもしていて、そのドタバタが、また小ネタになっている。
また、トレーシーに対する身代金要求の電話があったが、それも犯人今一つわからずじまい。
それだけでなくこの忙しさの中、フロストもバーナードも、ちゃっかり彼女もいて、ますます大忙しだ。
これだけ小ネタが多いと、いささか読むのに骨が折れる。
だがこのドタバタ加減が、フロストシリーズの大いなる面白さの元になっているのは間違いない。
ネコ缶も最初は混乱したが、すっかりフロストのペースにハマってしまった。
フロスト感想2 フロストのキャラが濃い
フロストはとにかくキャラが濃い。
身なりは汚いし、口を開けば下品なジョークが飛び出す。
薄汚れたレインコートを羽織った男がロビーに駆け込んできた(略)
プレスの利いてないヨレヨレのズボンをはいた、見るからにだらしない格好の男だ。
(略)「車をぶつけた。どこかのあほの車のけつに」とだらしない格好の男は言った
「クリスマスのフロスト」P66
そしてとにかく、物忘れが激しい(しかも大事な会議まで忘れる)。
「(略)会議の事に関しては、あんたのとこにも昨夜連絡があったはずだ。
署長があんたのことを探してたぞ」(略)「そうだった、捜査会議があったんだ。なんとまあ、すっかり忘れてたよ」
「クリスマスのフロスト」p67
これだけでなく、残業報告の書類や犯罪統計に関する書類の提出を毎回忘れて、その都度冷や汗をかいている。
でもフロストは、ただの怠け者ではない。
今なら絶対に罪に問われるであろうことを、困った部下のためにやってのけるのだ。
「サミー、賄賂をつかませて若い刑事を買収することは、とんでもない重罪だ(略)寛大なところを見せてやってもいいぞ。
あんたがデントン警察署の、ある署員のことに関して口をつぐんでいるなら、
おれもあんたの贈賄と買収に関しては口をつぐむ」(略)「それじゃあ彼の借用書をもらおうか」
フロストは中身を確認し、ライターで火をつけた「クリスマスのフロスト」P380
そしてフロストは、訳はあるが超名誉な勲章・ジョージ・クロス勲章をもらったりもしている。
いろいろ欠点の多いフロストだが、むやみにいばったり人を貶めたり、弱いものをいじめたりはしない。
だからこそ読者は憎めず、デントン署でも信頼されているのだろう。
フロスト感想3 わき役たちも超個性的
フロストシリーズは登場人物がとにかく多い。
だからこんなにドタバタするのだろうが、わき役たちもフロストに負けず劣らずキャラが濃い。
強烈な上昇志向を持つフロストの上司・マレット。
神経質で、フロストとよく衝突する有能なアレン警部。
お坊ちゃんだけど、これまた上昇志向の強いバーナード(でも惚れっぽい)。
やたらと仕事を押し付けられる、ちょっと卑屈なジョニー・ジョンスン・・・・。
チョイ役の巡査も村の人も浮浪者も、とにかくみんな人間臭い。
良い人もいるが、それぞれ愚痴っぽかったり意地悪だったりする。
イギリスって紳士の国やなかったん?
でも話は全く湿っぽくならない。
松本清張の小説ばりに転落してる人もいないのだ。
これも作者の力量+フロストシリーズの魅力なのだろう。
このデントン署のバタバタの人間関係が、これからも引き継がれていくのだろうか。
だとしたらちょっと楽しみだ。
R・D・ウィングフィールド(フロストシリーズ)「クリスマスのフロスト」まとめ
ネコ缶評価
主要な事件だけを追っていたら、けっこうあっさりした本格派のミステリーになったかもしれない。
そこに様々な人物が出入りし、バタバタしている様子はまさにドリフ、吉本新喜劇。
ただ少々小ネタが多いせいか、読むのに骨が折れることもある。
小ネタに気を取られて、主要な流れを忘れそうになることもある。
それだけが欠点か。
フロスト、面白そう、もっと読みたいなと思った方⇒「フロストシリーズ」はこちら