ネコ缶は基本的に、子供が巻き込まれる事件を扱うミステリーは苦手だ。
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だが最近ハマっているフロストシリーズは別。
1作目の「クリスマスのフロスト」から、フロストシリーズは子供が巻き込まれない事件はない。
でも途中で投げ出すこともなく、ここまで楽しく読めているのだ。
今回ご紹介する「フロスト気質」もご多分に漏れず、子供が犠牲になる話から始まる。
子供が犠牲者になるだけでなく、とんでもない状態の死体が見つかるのもフロストシリーズのお約束。
客観的に見ればゲッソリするこの案件を、フロストはどう軽快にさばいていくのか?
早速みていこう。
Contents
R.D.ウィングフィールド「フロスト気質」 上.下 あらすじ
ハロウィンの日、ごみ袋の中からガイフォークスの人形と、少年の死体が見つかった。
何とか少年の身元を割り出し、家族の元へ重い足を運んだフロスト。
だがその家にあった写真の中の少年は、なんと全く違う顔。
またこの事件と同じころ、寝ている幼児の腕に針を刺すという奇怪な事件が多発。
その上子供3人が殺され、母親が行方不明になる事件までもが起こる。
フロストのライバル、アレンは主任警部代行としてグリーンフォード署の応援にいってしまい、デントン署はますますの人手不足。
そのアレンの後釜を狙うのは、若手女性部長刑事のリズ・モード。
「張り切り嬢ちゃん」とフロストに言われる彼女は、無事に警部になれるのだろうか?
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しばらくして、デントン署の応援に来た一人の警部。
彼の名はジム・キャシディ。
彼は元デントン署の刑事なのだが、なにやらフロストに深い恨みがある模様。
人手不足で、今日も大混乱のデントン署。
今日も不休不眠でフロストは働く・・・。
R.D.ウィングフィールド「フロスト気質」 上.下 感想
「フロスト気質」も、今まで同様、様々な事件が同時進行で起こる。
そして混乱の中フロストは不休不眠(マジで寝てない)で、大量に煙草を吸いながら事件にあたるのだ。
「フロスト気質」で起こる事件を書いていこう
- ボビー・カービィ行方不明事件
- 幼児殺傷事件(幼児の腕にピンを刺す不審人物が出る)
- キャロル・スタンフィールド誘拐事件
- ディーン・アンダースン殺害事件
- レミー・ホクストン殺害事件
- ナンシー・クローヴァ―とその子供たち殺害事件
- キャシディの娘の過去の事件
- その他
①⑤⑥の事件が中心になって物語は進んでいく。
前作の「夜のフロスト」はかなりごちゃごちゃした感じだったが、今回は主要な事件を絞り込んだせいか、900ページ以上あるボリュームのわりにすっきりしている。
モチロンこのお約束も健在だ。
今回その役目を担うのは、初の女性部下、26歳の部長刑事、リズ・モードだ。
もちろん、フロストはリズにも遠慮なくセクハラ間違いなしのジョークをバンバン言う。
果たしてリズとフロストは、うまく仕事はできるのか・・・
それは大きなポイントだが「フロスト気質」のお楽しみはそれだけではない。
なんと、デントン署にもう一人、ジム・キャシディという刑事が派遣されてくるのだ。
彼は以前デントン署に勤務していたが、娘が交通事故死。
その事故を担当したのがフロストなのだが、キャシディは当時のフロストの捜査にかなりの不満を持っているときた。
一波乱ありそうなこの2人組も楽しみにしておこう。
失敗の多いフロスト
今回印象に残ったのはこれ。
上巻はそうでもないのだが、下巻になると失敗ばかりで、読んでるこちらもハラハラし通しだ。
もともとフロストは「俺の直感がそういっている」と、独自の判断で捜査を進めるから失敗も多いのだが、それにしても今回は多い。
ざっと挙げただけでもこれだけある。
- 盗まれた宝石を見つけた後、紛失
- 人選ミス(トミー・ダンという信頼できないごろつきに、重要な役を任せる)
↓ - トミー・ダンの失敗のせいで、身代金回収に失敗
- 身代金回収に失敗したせいで、コードウェル卿を激怒させる
- 飲酒運転をしてしまい、事故を起こす
・・・などなど。
その都度クビが飛びそうになるフロストだが、すんでのところで何とかなるのもお約束。
「フロスト気質」後半戦は、犯人とフロストの一騎打ち・知恵比べだ。
これも最初はフロストの負け・失敗が続くが、最後は起死回生の一打が出てフロストの逆転勝ち。
あまりハッピーエンドではない終わり方も多いフロストシリーズだが、今回は大団円。
ハラハラさせられる展開だったが、ラストで溜飲の下がる思いがするだろう。
イギリスにもある女性差別
ネコ缶の幻想かもしれないが、こう思っていた。
日本は女性の管理職も少ないが、海外ではみんな女性も出世する。
だから当たり前のように、女性上司の命令を聞くんだろうな~と思っていた。
ところが、意外なことが判明。
デントン署での、リズ・モードへの風当たりが強いこと強いこと。
女性が上司になること、女性から命令されることに大半が嫌悪感をもっているのだ。
署長のマレットなどは時代的にみて仕方がないかと思うが、40歳前のビル・ウェルズなどは、彼女をけちょんけちょんにけなす。
他にも、事情聴取をするリズにひどい言葉を投げる男性も多かった。
一方フロストは、リズを「嬢ちゃん」とは呼ぶが、嫌がらせはしない。
(セクハラは多いが)
そして最後にリズが昇進する際、このセリフを言う。
「近々また、人事上の異動措置が発令されることになるわけだが(略)モード部長刑事に朗報をもたらすことができるのではないか・・・と思っているところだ」
「適任ですよ。彼女なら立派に務まる」フロストは言った。
「フロスト気質」下p448
だらしなくて下品で、清潔感ゼロのどうしようもないフロスト。
だが、どんな人間でも「差別」「区別」をしないところが彼の人気の秘訣だろう。
名物「あの本のアレ」
フロストシリーズも今回で4作目。
前回からチョコチョコ、これが出始めた
マニアが喜ぶこのシリーズ、今回もちゃんとあったのでみていこう。
「あたし「ココナツ・グローヴ」ってとこで働いてるんです(略)そこでブラックジャックのディーラーをやってるんです」
「フロスト気質」上p135
ココナツ・グローヴって、「フロスト日和」で出てきた、評判のあまりよろしくないカジノやな。
そしてもちろん、オーナーのハリー・バスキンも登場する。
お次はこちら。
フロストは以前にも、行方不明になった8歳の少女を探して、デントン・ウッドの森に捜査隊を波面したことがある。
「フロスト気質」上p142
これは「クリスマスのフロスト」やな!
最後はこれ。
フロスト警部が担当する事件は、なぜこうもおぞましいものなのか?
以前にもフロスト警部に呼び出され、公衆便所の小便の海に遣った浮浪者の死体を、検分させられたことがあった。
「フロスト気質」上p381
もうすっかりおなじみの登場人物、スロウモン医師の愚痴。
これもフロスト日和。
この愚痴通り、衝撃的な出だしで始まる。
ところで「フロスト気質」は4作目なので、登場人物のキャラもますます濃くなっている。
ビル・ウェルズは相変わらず受付で愚痴ってるし、アーサー・ハンロン(と、マレットの秘書・アイダ)は、あいかわらずフロストに浣腸されてる。
米つきバッタ・マレット署長はますます嫌な奴になってるし、厳格なドライズデール検屍官は、超忠実な女性部下を従え、今日も冷静に解剖だ。
個性豊かなわき役の面々も楽しみの1つやな!
R.D.ウィングフィールド「フロスト気質」 上.下
ネコ缶評価
救いようのないラストもたまにあるフロストシリーズ(このあたり皮肉好きなイギリスらしさなのか)。
だが今回はハッピーエンドで大満足だ。
恋愛モードは今回は薄めだったが、その分ジム・キャシディとフロストのからみがいい味出してる。
シリーズ最高の900ページを超す長編だが、事件のメリハリが効いているせいか全く気にならない。
フロストシリーズをもっと読みたい方⇒一度読むとクセになるフロストシリーズはこちら