最近イギリスミステリーばかり読んでいる。
しっちゃかめっちゃか群像劇のフロストシリーズ
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連作ドラマ仕立ての名作アンソニー・ホロビッツ群ときて
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さわやか女子高生探偵のホリー・ジャクソンだ。
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そして今回ご紹介するのは、一風変わったバディものの「ブラックサマーの殺人」だ。
前回同様、ちょっとはぐれもの同士のポーとテイリ―が、今回もがっちりコンビ愛をみせてくれる。
詳しくみていこう
Contents
M・Wクレイヴン「ブラックサマーの殺人」 あらすじ
カンブリア州のとある図書館では、こんな計らいがあった。
地域のためといいつつ、退屈な仕事に文句を言いながら図書館にやってきたアルソップ。
彼の元に早速住人がやってきたのだが・・・・
その若い女性はなんだか様子が変だった。
あざあらけの顔、髪はもつれてぱさぱさ、ゲッソリとやつれており、夏だというのにニット帽に長袖シャツを着ていた。
不信感を持ちつつ、彼女の名前を聞いたアルソップは顔色が変わった。
彼女は6年前に起こった事件で、死んだとされていた女性だったのだ!
しかもあろうことか、その事件を担当し、殺人犯を検挙したのはワシントン・ポー。
ポーは誤認逮捕をしたのか?
これは冤罪だったのか?
じゃああの時死んだのは一体誰?
警察がパニックになる中、なぜか名乗り出た女性までもが行方不明になる・・・。
あらゆる証拠がポーに不利に動く中、ポーを救うべくテイリ―やフリンが立ち上がる。
ポー&テイリ―シリーズ、待望の第2段!
M・Wクレイヴン「ブラックサマーの殺人」 感想
今回は前回と違い、最初から犯人はほぼ解っている。
いわゆる「ハウダニット」もの。
しかしこの「どうやって殺したの?」という謎が、今までのミステリーにないくらい強烈に難しい。
密室がどうとか、アリバイが無理とか凶器が見つからないとか、ありがちなレベルではない。
こんなレベルなのだ。
突如現れた女性の血液が、6年前に殺されたとされた本人のものと一致
・・・と誰もがこう思ってしまうこの謎。
そして現れた女性が、本当に6年前に殺されたはずの女性だったとしても、これらの謎が芋づる式に出てくる。
この女性は今までどこにいたの?なんで今?
じゃあ真犯人はいまどこに?
この時犯人とされたキートンは無罪放免?
キートンを逮捕したポーはどうなるの???
そしてそれだけではなく、「ブラックサマーの殺人」ではこんな事にもなるのだ。
6年前に死体は見つからへんくって、状況証拠だけで逮捕・送検になってんもん。
犯人としてキートンをあげたのは、ポーのかなりの独断やったし
おまけにこれが加わる
こんなことが物語の3分の1くらいで立て続けに起こる。
もおのっけから
ポー、大ピンチ!
やで。
さすがのポーも、ポーを救いたい天才分析官・テイリーも超悪戦苦闘だ。
むしろそこに行くまでのプロセスがかなり壮大で、感動すらしたで。
さてお次はポーシリーズの名物をみていこう。
「ブラックサマーの殺人」見どころ1 ポーとテイリ―の友情
前回、「ストーンサークルの殺人」で、少々変わり種のテイリ―とポーの友情を紹介した
「ストーンサークルの殺人」詳しくはこちら
そして今回もその友情はしっかり健在。
謎の女性が現れた後、ポーは必至で捜査するも、検査には不正が見当たらない。
万事休すになったポーは、テイリ―に助けを求める。
やるべきことは解っている(略)奥の手を使うしかない(略)短いメッセージを作成し送信した。
「テイリー、大変なことになった。」
(略)ポーは腕時計に目をやった。夜中の3時に訪ねてくるとはいったい誰だ?
M・Wクレイヴン「ブラックサマーの殺人」P191~ p200
夜中の3時に、パソコンを入れたリュックを担いでポーの元まで現れるテイリ―。
この時、ポーは驚き安心するが、読者も多分こう思ってホッとするはずだ。
ポーはテイリ―のIT技術に絶対の信頼を置いているのだが、前作を読んだ私たちもテイリ―の頭脳には絶対の信頼を置くのだ。
ありのままの自分を初めて受け入れてくれたポーへの信頼は、今回も揺らがない。
「ポーは今、大変なことになってるんだよ」(略)
「ポーを守るためならあたしはなんでもする。それを解って欲しい」
M・Wクレイヴン「ブラックサマーの殺人」p319
「テイリ―、ちょっと頼まれてくれないか?」
「もちろん、いいよ」
彼女はいつもこうだ。何をするのか解らなくてもイエスと答える。
M・Wクレイヴン「ブラックサマーの殺人」p412
忠犬のようにポーを信頼し、守り、頼みを聞くテイリ―。
けなげすぎて涙がでる。
この2人の信頼関係がある限りは、どんな事件も解決するのでは・・・と思う。
見どころ2 ポーとテイリ―を見守るフリン
そして2人を支える上司・フリンもなかなか懐が深い。
実はフリンはポーの元部下。
いまは逆転してポーの上司になっているが、まったくおじけづくこともなく変な気を遣う事もない。
この2人の影になり日向になり、事件解決へのバックアップをするのだ
「わかった」フリンは言った。
「あなたはその場にいたけど私たちはそうじゃない。」
フリンがここまでいい警部になれた理由の一つは、細かいことに口を出したり、後知恵で批判したりしない点だ。信用できる部下である以上、信用するという態度を貫いている
M・Wクレイヴン「ブラックサマーの殺人」p241
扱いにくいであろうテイリ―やポーを根気よく使い、信頼し、細かいことを言わない。
理想の上司じゃないだろうか。
なんというか、この3人の関係は見ていてさわやかなのだ。
安心して見ていられる。
個性豊かな3人がたまにぶつかりつつ、互いに尊重し合って事件解決に向かっている様子は「プロジェクトX」をホーフツとさせる。
ちょっと奇想天外なところがかなり薄くなり、社会性が出てきているのだ。
成長したともいえるが、少々寂しい。
3作目の「キュレーターの殺人」はもっと成長してるかもな。
ちなみに彼らだけではなく、犯人のジャレド・キートンはアンソニー・ホロヴィッツの「殺しへのライン」に出てくる料理人・マーク・べラミーになんとなく似ている。
また、新登場のポーの敵役・ウォードルは、権威主義で威圧的なところがフロストシリーズのマレットを思わせる。
質の高い舞台のように個性豊かな俳優立ちの揃った「ブラックサマーの殺人」。
おススメやで
M・Wクレイヴン「ブラックサマーの殺人」 まとめ
ネコ缶評価
かなりの力作で、前回よりも相当読みやすい。登場人物もキャラが立っておりなかなかに愉快。
だが気になったのはキートンの動機が薄いこと。
「サイコパスだから」の一言で、すべてが都合よく片付いているような気がしてならないのだ。
とはいえ、メインはポーとテイリ―の事件解決への道のり!
3作目ももちろん読むで!
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