前にも言ったかもしれないが(多分言ってる)つくづく思うので、もう一度言う。
最近のミステリーは「続編ありき」で作られている気がする。
昔は人気が出たから、続編を作るっていう感じやったけどな~。
アンソニー・ホロビッツシリーズはこちら
MWクレイヴンはこちら
今回ご紹介する「優等生は探偵に向かない」も、そのうちの1つ。
でもこういったシリーズものありきで作られている作品は、面白いものが多いのだ。
当然、前作の「自由研究には向かない殺人」は、「このミステリーがすごい」第2位。
「優等生は殺人に向かない」は5位。
連続でランクインは当たり前だが難しい。
期待が出来るこの作品、詳しくみていこう!
Contents
ホリー・ジャクソン「優等生は探偵に向かない」 あらすじ
アンディとサルの事件からしばらくたち、ようやく落ち着いてきたある日の事・・・。
同級生のコナーから、ピップにこんな依頼があった。
以前の事件で深く傷ついたピップ。
引き受けたくないと警察に行くも、大人の男が1日いないくらいで・・・という事で相手にされない。
仕方なく重い腰を上げたピップとラヴィ。
前回同様、SNSやポッドキャスト、フィットビットなど、21世紀の技術を駆使して情報収集。
自分たちで事件を捜査する。
そんな中、ジェイミーが一人の女性「レイラ」とチャットで出会い、頻繁に連絡を取っていることが判明。
しかもその「レイラ」に、ジェイミーがどこから用意したのか、大金を渡してもいることも判明。
そしてそれだけでなく、「レイラ」は複数の男とつながりを持っていたが、その男たちには共通の特徴があった・・・。
大人気作品「自由研究には向かない殺人」の第2段!
ホリー・ジャクソン「優等生は探偵に向かない」 感想
冒頭でも少し触れたが、「優等生は探偵に向かない」は、前作「自由研究には向かない殺人」と密接にかかわっている。
登場人物も9割位同じだし、そもそも「自由研究には向かない殺人」のすぐ後からのストーリー仕立てだ。
・・・というのが、普通のシリーズものの流れ。
だが「優等生は探偵に向かない」は、これがあまり当てはまらない。
前作を読まないと、全く解らない・・・という事はない。
でも面白さが30%いや、50%ダウンしてしまうのだ。
まだ前作を読んでいない人は、このブログを読むのをやめて(ネタバレになる)、すぐに本屋に走ろう。
そして「自由研究には向かない殺人」から読むのだ。
その方が絶対にこのシリーズを堪能できるので、ぜひそうして欲しい。
ではここから詳しく見どころを書いていこう。
「優等生は探偵に向かない」見どころ1 丁寧な描写
トリック、構成、伏線の張り方と回収などは、前回同様言うまでもなくうまい。
でもネコ缶がいちいち感心するのはこれ
登場人物の感情表現の描写がとにかくうまい。
特にこの辺りで感心した。
- 溺愛する息子が、行方不明になったときの母親の取り乱し方
- 自信を無くしているジェイミーが、レイラに惹かれていく様子
- 精一杯やっていることを(しかもピップ自身が多大な犠牲も払って)捏造だと友人から言われた時のピップの怒り
- 少し人生を斜に構えている、ナタリーのふてくされた様子
などなど・・・
目の前に見える位、リアルに描写されているのだ。
アガサクリスティはこれが上手いなと思ったのだが、ホリー・ジャクソンも相当うまい。
特にピップが、悪に引き込まれてしまいそうになるこの表現。
「穴に引き込まれる」
前回でも出てきていたが、今回もよく出てきていた。
またあの感覚が戻ってきた。腹の穴が徐々に大きくなり、自分を呑み込むためにぽっかりと口を開く。
「優等生は探偵に向かない」p189
ピップはアントの顔に向かって吠えた。
声は喉を切り裂き、目を突き破り、腹に開いた決して埋まらない穴をさらに大きくした。「優等生は探偵に向かない」p411
18歳とは思えないくらい、優秀でしっかり者のピップ。
とはいえ、専門家でもないのに事件にかかわるのは、メンタルをやられるのは必至。
でもなんとか邪悪なものに吸い込まれずに、冷静に踏みとどまって友人のために奮闘するピップ・・そして葛藤。
その表現の仕方が繊細で光るのだ。
前回もそうだったが、そのピップを優しくフォローしてくれるラヴィは、今回も健在。
この2人の初々しいコンビの活躍とやりとりは、今回も癒しになっている。
「優等生は探偵に向かない」 見どころ2 イギリスの治安について心配
このシリーズもの2つを読んで思った。
「イギリスの治安は大丈夫なのか」
そして前作から気になっていたのがこれ。
簡単に言うと、高校生たちが親のいない家でバカ騒ぎをするパーティのこと。
でもお酒やたばこは当然のこと、麻薬もレイプも横行している。
親も解っているのだろうが、特に注意したり外出をやめたりする様子はない。
日本では高校生のパーティは、せいぜいお菓子やジュースで、ちょっと羽目を外してお酒を飲んでみようか・・・という感じだろうか。
念の為言うが、ピップの通う高校は荒れた学校ではない。
なんせピップは、ケンブリッジに行こうとしている優等生(タイトル通りだ)だ。
前作「自由研究には向かない殺人」のアンディは、オックスフォードを目指していた。
となると、かなりのレベルだろう。
でもこんなパーティが、当たり前のようにしょっちゅう行われているのだ
ピップをかわいがっている父も、このパーティへの参加は大して気に留めていない。
特に気になったのは、学生たちの間での麻薬のはびこり方。
なんせ高校生自らが売人に近づき、学校で売りさばくということが衝撃でも何でもないように書かれているのだ。
「自由研究には向かない殺人」でも、「親に見捨てられたまだ未成年の少女」というキャラが出てきてギョッとする。
そこで思い出したのがこの本。
この本では、ロンドンは若者間の麻薬のはびこり方がひどいと書かれている。
そして、若いホームレスも珍しくはなく、貧困や再婚ゆえに親に捨てられた子もかなりいるとのこと。
作者の「めいろま」さんはツイッターでも舌鋒鋭い方だが、海外(イギリス)生活も長く、かなり真実を言っているのだと思う。
同じく、イギリスが舞台のフロストシリーズにも、そんな風に社会からはみ出してしまった人が頻繁に出てきた。
ホリー・ジャクソン「優等生は探偵に向かない」 まとめ
ネコ缶評価
今回も、文句なく100点満点。
この人はうまい。
とはいえ、今回も解決していない問題がこれだけある。
このピップシリーズは3部作らしい。
次回が完結編か。
次回はどんな若者らしい文明の利器で、事件を解決してくれるのだろうか。
瑞々しいピップのシリーズに興味がある方⇒「優等生」ピップの事件簿はこちら