ネコ缶は7月くらいからとある作家さんの出版を今か今かと待っていた
その作家さんとは「アンソニー・ホロヴイッツ」氏
アンソニー・ホロヴィッツは、日本では年に1回夏から秋にかけて出版されている。
そろそろ禁断症状が出るかと思われる9月に、ようやく出たのはホーソーンシリーズの第5作目のこちら。

待ちに待った1年ぶりのホーソーン、詳しくみていこう!
Contents
アンソニー・ホロヴィッツ「死はすぐそばに」あらすじ

あらすじを書く前に1つだけ注意点。
今回は前回までの4作とは少々構成が違う。
「昔あった事件を本にする」という形なのだ。
そしてもちろん、謎めいたホーソーンの過去も次第に明らかになってくるのはお約束だが、こちらは意外な事が判明した。
なんとホーソーンにはかつて違う相棒がおり、アンソニーは2代目だったのだ。
そして今回の物語の大半が、4年前の初代相棒とホーソーンの活躍で占められている。
アンソニーはホーソーンと事件を追うのではなく、4年たった現在、1人で過去の現場や人物にかかわり新たな真相を知ることになるのだ。
という心配はあるかもしれないが、そこはさすがのアンソニー・ホロヴイッツ。
とても読みやすい形にしてくれており、よる年波で集中力が途切れがちなネコ缶でも難なく読めた。
4年前の話と現在の話のあらすじを、それぞれを見ていこう。
「死はすぐそばに」(現在の話のあらすじ)

ホーソーンとのエピソードをシリーズ化し、すでに4冊出版しているアンソニー。
人気が出てきたという事もあり、次回作をそろそろ・・とヒルダにせっつかれていた。
だがホーソーンが必要になるような「難解な殺人」というものはそうそう起こるものではない。
要するにネタ切れを起こしていたのだ。
困った2人は、4年前にホーソーンが解決したという古いネタを本にすることを思い立つ。
アンソニーにとっては資料も豊富で結末も解っているし、書きやすい事この上ない。
だがなぜかホーソーンは、この事件を取り上げる事になぜか後ろ向き。
資料をまとめて渡すことも、関係者に会いにいくのも嫌がる。
次第に2人の仲も険悪になっていき、最後にホーソーンはアンソニーとの打ち合わせをすっぽかす。
仕方なしにアンソニ―が4年前の現場や当事者に1人で行くことになるが、そこで見た意外な真実は・・・。
「死はすぐそばに」(4年前の事件のあらすじ)

リヴァービュークロースは5つの家がある静かな住宅集合地。
皆仲良しでトラブルも無く、協力し合って暮らしていた。
だが新しく引っ越してきたケンワージー家がその均衡を破く。
騒音や駐車問題など、他の家とのもめごとを次々と起こしがちな一家だったのだ。
困り果てた住人との話し合いの場もすっぽかし、ますます皆から嫌われる。
そしてとうとうある日の朝、事件が起こる。
ジャイルズ・ケンワージーが、何者かに喉をクロスボウで射抜かれた死体で発見されたのだ。
震え上がったのは残り5件の家庭。
何故ならこの殺人事件の動機は、5件の家庭全員が持ってるから。
しかもリヴァービュー・クローズは、敷地を高い塀と門に囲まれている・・・・。
さあ犯人は5件の家庭の誰?
ホーソーンとかつての相棒、ジョン・ダドリーが真相に挑む!
アンソニー・ホロヴィッツ「死はすぐそばに」感想

楽しみにしていた分もあり、少しずつ読んだ。
もったいなくてちょびちょび読んだで
・・・だがこの作品の読了感は半端なく悪い。
いつもの様にスカッと解決といかないばかりか、ホーソーンの抱える闇に(強引に)ずかっと深く入り込んだ印象なのだ。
今回がホーソーンシリーズの5作目。
全部で10作というから、折り返し地点だ。
だかここにきて、決して良くはなかったアンソニーとホーソーンのコンビに、さらに深いヒビまで入ったようにも感じる。
今後、このコンビはどうなっていくのか・・・ファンとしては不安が残る。
ではそれぞれの見どころを書いていこう。
「死はすぐそばに」見どころ1 4年前の事件について

以前から、作者のアガサクリスティに対する尊敬はかなり感じたが今回も炸裂している。
今回それをひしひしと感じたのはこれ。
ゆるめのクローズドサークル(地方都市の割と高級住宅地)で起こる殺人事件。
ミス・マープルの、セント・メアリーミードを感じるのだ。
ポアロにもそういったネタはいろいろあるが、今回のは「メソポタミアの殺人」を連想させる。
アガサクリスティはクローズドサークルものがとてつもなくうまかったが、アンソニーホロビッツも上手い。
登場人物の描き分け、キャラ設定がとてもハッキリしており、読んでいて頭がごちゃごちゃにならないのだ。
「死はすぐそばに」は、そこに密室殺人も加わり読みごたえは十分。
トリックは技巧に走りすぎかと思うくらい緻密。
犯人の人間像はかなり偏った人柄だな・・・と印象は受ける面もあった(江戸川乱歩に出てきそうな狂気じみた一面がある)。
ただそこまで緻密な話を読みやすく、1つの伏線も取りこぼさないのはアンソニーホロビッツの魅力であり得意技。
そして今回、さらにうなったのはこれ
- 3人称の書き方と1人称の書き分けの巧みさ
- 個性豊かなリヴァービュークロースの登場人物の書き分けの巧みさ
特に老嬢コンビの話し方などは、彼が敬愛しているアガサクリスティを思わせるものだった。
よくできたミステリーだったが・・・
今回の事件はあくまで舞台。
「死はすぐそばに」のメインテーマはホーソーンの過去を描く事だという気がする。
そう思わせる位、ホーソーンの内面や過去に切り込んだ印象なのだ。
てなわけで、見どころ2を書いていく。
「死はすぐそばに」見どころ2 ホーソーンの謎に関して

ホーソーンは、かつてジョン・ダドリーという男性とコンビを組んでいた。
・・・と思いきや、様子は全く違う。
これぞ相棒という信頼し合った雰囲気で、息ピッタリなのだ。
それもそのはず。
2人は8歳の頃からの幼馴染で、2人とも元警察官だったのだ。
ホーソーンの才能を認めて助手に徹してるし。
捜査も、あうんの呼吸で進んでた。
サクサクと2人で無事に解決と思いきや・・・・ラストはまさかの展開。
犯人の方が一枚上手だったというオチなのだ。
これは今までにない結末で、読者にとってはかなりの痛手だが、今回はそれだけではない。
もう1つ悲しいことが上乗せされてしまう。
皆が読み進めるうちに思う疑問
同時にラストで判明する。
それがなんだか悲しいのだ。
そしてなぜホーソーンが、なぜこの事件をほじくられることを頑なに嫌がっていたのか・・という事にもかすかに合点がいく。
今回、ホーソーンがリアルの現場で活躍することはなかったが、これだけの謎が明らかになった。
- アンソニーはホーソーンの2代目の相棒
- ホーソーンは警察をやめた後フェンチャーチという調査機関に属している
- その組織にはローランドやジョン、もしかしたらケヴィンも属している
- ホーソーンの住んでいるマンションはその組織の宿舎
そして何より驚いたのはこれ↓
「ホーソーンとはどこで知り合った?」
(略)
「リースで」
「君はリース育ち?」
「俺たちは同じ学校に通っていたんだ」「死はすぐそばに」p463
これが判明したことは、実はかなり大きな事だ。
・・・みなさんは覚えているだろうか。
シリーズ3の「殺しへのライン」に出てくるデレク・アボットという人物がアンソニーに、こんな一文を書いた手紙を出したことを。
リースの事をホーソーンに訊いてみろ
「殺しへのライン」p442
そしてシリーズ2の「その裁きは死」のマイク・カーライルも、ホーソーンにこんなことを言っていた。
「だって(ホーソーンは)リースにいただろう?」
「その裁きは死」P217
ホーソーンシリーズは、ポアロを思わせる名探偵ぶりを読むのも楽しいが、彼の正体は一体何なのか・・というシリーズを通して貫かれる謎も大きな魅力。
だが今回、アンソニーとの仲も壊れかかっているし、彼の抱える闇もとてつもなく大きいのではないかと思うようになった。
なんだか展開が心配になってくる。
同じイギリス人作家さんの、ホリー・ジャクソンでトラウマになったからだろうか・・
アンソニー・ホロヴィッツ「死はすぐそばに」まとめ

ネコ缶評価
いつもながら引き込まれる。
3人称の書き方は今回が初めてだが、とても見事で読みやすかったのはさすが。
トリックが本人の気性や技巧に走りすぎの感はあるが、やはりこのシリーズが面白い事には変わらない。
ホーソーンのアンタッチャブルな面にかなり踏み込んでしまったアンソニーが、次回からどう振る舞うのか・・・
早く来年の9月が来てほしいよな!
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