発売が待ち望まれる作家さんがいる
前回の「ナイフをひねれば」でも書いたが、ホリー・ジャクソンさんもそのうちの1人。
⇒「ナイフをひねれば」くわしくはこちら
この度「ナイフをひねれば」を見つけた時、横にピップシリーズの完結編「卒業生には向かない真実」を見つけたので、大喜びで2冊ともゲット。
ピップシリーズの完結編、詳しくみていこう!
※今回はネタバレが多いので要注意です
※まだ1作目2作目を読まれていない方は、必ず読んでから「卒業生には向かない真実」を読んでください!
⇒「自由研究には向かない殺人」詳しくはこちら
⇒「優等生は探偵に向かない」詳しくはこちら
Contents
ホリー・ジャクソン「卒業生には向かない真実」あらすじ
ピップは窮地に立たされていた。
連続レイプ犯のマックス・ヘイスティングスに、名誉棄損で訴えられているのだ。
弁護士を立てての裁判・・・。
多額の賠償金・・・。
18歳のピップには当然荷が重すぎる案件。
おまけに前回の事件のショックから眠れない日々が続き、ピップは安定剤や睡眠薬なしでは過ごせなくもなっていた。
そしてある時ピップは、自分がストーカーに付きまとわれている事に気づく。
だが調べていくと、その手口は6年前に起こった連続殺人事件の犯人と酷似していて・・・・
「自由研究には向かない殺人」「優等生は探偵に向かない」から続く三部作の完結編!
ホリー・ジャクソン「卒業生には向かない真実」感想
のっけから重い。
前回の「優等生は探偵に向かない」のラストがどうも不穏な終わり方をしたので、どうなっていくのか心配していた。
だが事態は思ったよりずっと深刻になっていた。
これも意味深よな
ピップは前回の事件以降精神的に病んでいるし、あの極悪人マックスは無罪放免になって大いばりでピップを名誉棄損で訴えている。
念の為に言うがピップは犯罪者ではない。
リトル・キルトンという小さな町の「隠されていた真実を暴いた」それだけなのだ。
重くて暗い始まり方をしたピップシリーズ3作目。
どうなっていくのか・・・見どころを紹介していこう
「卒業生には向かない真実」見どころ1 「自由研究には向かない殺人」とリンク
今回、またしても事件が見つかる。
アンディ・ベルが殺された時期と同じころ、連続殺人事件が同時に起こっていたというのだ。
読み進めていくと、その事件はこれを連想させる。
「ウロボロスの蛇」
つまり第1作目の「自由研究には向かない殺人」に確実にリンクしてくのだ。
確かに犯人は逮捕された。
アンディ・ベルを、思ってもみなかった形で殺してしまった犯人は今も刑務所にいる。
だが「圧倒的黒幕」と言える人物が実は他にいたのだ。
そしてその犯人のおぞましさに、おののく読者も多いだろう。
壮大なストーリー展開に度肝を抜かれるはずだ
「卒業生には向かない真実」みどころ2 結末・展開に疑問
黒幕の存在が、今の時期になってあぶりだされたことは驚きの事実だ。
だがそれは665ページある「卒業生には向かない真実」のわずか3分の1の内容に過ぎない。
ピップはわりとすぐに犯人を突き止める。
だが・・・そこでなんとピップは、犯人を殺めてしまうのだ。
「卒業生には向かない真実」の主題は、実はここから始まるといっても過言ではない。
ピップは自分の身を守るため、完全犯罪を目指す。
そして罪を一人の人間に擦り付けるのだ。
「自由研究には向かない殺人」からの、ピップのあまりの変わりように驚きながらも、ネコ缶はこの本を思い出した。
「犯人に告ぐ」2.3
⇒「犯人に告ぐ」2詳しくはこちら
⇒「犯人に告ぐ」3詳しくはこちら
「犯人に告ぐ」2.3も、完全犯罪をもくろむ人物の物語という事は同じ。
ネコ缶は犯人の砂山兄弟や淡野に肩入れをして、彼らが逃げきれないかと応援をしていたものだ。
だが「卒業生には向かない真実」」のピップには、どうもそういう気になれない
「犯人に告ぐ2.3」の淡野達は殺人を否定している。
ねらったお金はアンダーグラウンドの裏金だし、誰かに罪を擦り付けたりしない。
警察とのやり取りも、頭脳戦で痛快でさえあった。
ピップは全部逆の事をやっていた。
自分の身を守るためとはいえ、人を殺す。
それだけでなく、その罪を誰かに負わせることまでやってのける。
ただただひたすら、暗く辛い戦いが続く。
ピップのメンタルもボロボロだ。
なんでこんな展開にしたのかは、作者の謝辞を見ると解る。
この物語の根底に流れるのは、作者、ホリー・ジャクソンの強い警察・司法不信だ。
私たちを失望させる刑事司法制度やその周辺の実態について(略)
この国のレイプや性的暴行の統計、および通報件数や有罪判決の極めて低い率を目の当たりにすると、どうしようもない絶望感にさいなまれる。何かが間違っている。
「卒業生には向かない真実」 p670
強い社会不信、警察不信がシャーロック・ホームズの熱狂を生んだように、イギリス警察は今でも信用できないのだろうか。
ピップがいくら訴えても警察が聞き入れてくれない状況・・・これは日本の警察にもあった。
そこは解るのだが、やはりこの感情がぬぐえないのだ。
「こんな終わり方しかなかったのか」
ピップに明るい未来があるのだろうか。
全く想像もつかないのだ。
また、ピップが共犯を沢山作っていたのも気になる。
今は「友人」として強い結託をしているが、将来は解らない。
お金に困ったそのうちの誰かが、ピップをゆすったりしないかと思う。
一番協力した恋人ラヴィにしても、ピップがもし他に好きな人が出来た、別れたいなどという事になったらこう言い出さないとは言えない。
事件のせいで、変な形で別れられない2人・・になってしまうのではないだろうか。
「今」は確かにこれでいいのかもしれない。
だが「犯人に告ぐ」的に言えば、ピップは永遠に「ふるえて眠る」ではないのかと思い、後味がこの上なく悪いのだ。
そして「卒業生には向かない真実」には、なんら関わらない。
そこは少々拍子抜け・・・。
ホリー・ジャクソン「卒業生には向かない真実」まとめ
ネコ缶評価
小説のクオリティは高いと思う。
リアリティもあるし、感情描写も丁寧だ。
特に物語最後の665ページは、若い作者ならではのまとめ方で良い。
でも「自由研究には向かない殺人」のような明るさは、もうピップに戻らないだろうな・・・と思うとやるせなさしか残らない。
そこを知りたいと思うネコ缶なのだった。
ここから読んでしまった方、最初から読みたい方はこちら⇒ホリー・ジャクソンのピップシリーズ