小説でも映画でも、シリーズ物は2,3と続くとレベルが落ちることがある。
意外とあの有名な「館シリーズ」もそうかな。
今回ご紹介する「犯人に告ぐ3」はその真逆。
1より2、2より3と、徐々にレベルアップしていく良い作品だった。
これも1,2同様オーディブルで聴いた。
が、ハラハラドキドキが凄くて、途中で意味もなくネットサーフィンをして気を紛らわせながら聞いたり、夜は眠れなくなるから聞くのを控えたりもした。
それくらいサスペンス色が強く、手に(思い切り)汗握る作品だったのだ。
そんな強烈な作品、「犯人に告ぐ3」詳しく視ていこう!
Contents
雫井修介「犯人に告ぐ3」あらすじ
老舗の菓子メーカー「ミナト堂」の社長と息子の誘拐からしばらくたった。
砂山兄弟は逮捕されてしまったが、主犯格の淡野の方へ捜査の手は伸びていない。
とはいえ、何か所かあるアジトを回って定住を避けたりするなど、十分に注意をする生活は変わらなかった。
淡野が由香里という水商売の女性の所に泊めてもらうのも、そのための手段だった。
が、そこから淡野の暮らしは変化しだす。
お互いに悲惨な幼少時期を暮らしていた2人。
心を通い合わせるようになったのだ。
由香里との穏やかな生活は、淡野に心の落ち着きを与えた半面、詐欺師のカンも鈍りだす。
百戦錬磨の淡野も、たびたび失敗をするように・・・。
思い悩んだ挙句、詐欺師家業から足を洗おうとする淡野。
師匠と仰ぐ世話になった人物に、詐欺稼業をやめる旨を伝えに行った。
淡野を立派な詐欺師に育て上げたのは、AT企業社長の網代。
実は、彼は別名「ワイズマン」と呼ばれる大物詐欺師だった。
彼は淡野を前に、最後のシノギの話を持ち掛ける。
それはなんと「警察組織を相手に詐欺をしかける」ということだった・・・。
淡野は最後のシノギを成功させることが出来るのか?
巻島は淡野を阻止できるのか?
本格刑事サスペンスの第3段!
雫井修介「犯人に告ぐ3」感想
1,2よりもさらにパワーアップした3。
登場人物も個性的で超魅力的だ。
言い出したらキリがないくらい見どころがあるが、書ききれない。
かいつまんで書いていこう。
新キャラの渉もな!
カツオ君って誰?⇒「犯人に告ぐ」シリーズ
「犯人に告ぐ3」見どころ1 男たちを支える強い女
今回強く目を引いたのはこれ。
巻島、淡野、渉と、メインの男性キャラに、それぞれにフォローしてくれる女性キャラがついている。
性格なども書いていこう
巻島←まほ
まほは巻島の上司。
キャリア官僚だが、ギスギスしたところがなく穏やか。
状況を読んで、巻島にベストな対応をしてくれる。
同じく上司の、パワハラ曾根と比べてしまう。
まほは巻島にとって、とてもやりやすい良い上司には違いないだろう。
渉←えりこ
ならず者の渉の彼女。
えりこは客観的に見て少々厚かましい。
善悪の判断意識が薄いのは問題。
だが「犯人に告ぐ3」では、確実にそれが救いになっている。
渉が正当防衛とはいえ人殺しをしたというのに、「あいつ、ヤっちゃったらしくて」の一言で終わらせるのは苦笑い。
淡野←由香里
得体のしれない男(淡野)を住まわせ、一緒に暮らす心意気はスゴイの一言。
エリ子と同じく、善悪の区別があまり無い点を心配してしまうが、エリ子のような軽はずみさは感じない。
淡野の母親と近いものを感じる。
えりこも由香里も、闇を知ってる人間の底力とでも言おうか、そんなものを感じる。
渉もそうだが、全員が淡野が悪い奴と知っても付き合いを続け、最後は助けようとしてくれるのだ。
「犯人に告ぐ3」には強い個性を持ち、作品の中を走り回り、犯人や上司と丁々発止する女性はいない。
でも強い。
しなやかな強さを感じるのだ。
特にゆかりは、淡野が窮地に陥っても、何とか助けようとするところは本当に強い。
自分の中の良心だけに素直に従っているのだ。
他に感心したのは、渉や淡野のラブシーンを一切書いていない所だ。
個人的にネコ缶は、ミステリーに濡れ場をそこまで求めていない。
⇒ネコ缶の自己紹介
淡野とゆかりには、そんなシーンがあっても良かったかもしれない。
でもやはり、物語の本編からは少し外れてしまうだろう。
そのあたりも「犯人に告ぐ3」をネコ缶が評価する決め手だ。
「犯人に告ぐ3」見どころ2 再びのメディア利用
「犯人に告ぐ」では、巻島がニュースナイトアイズに出ることで犯人逮捕に結びついた。
⇒「犯人に告ぐ」
そして「犯人に告ぐ3」でも、行き詰った警察は再び巻島をメディアに送り込むのだ。
だが今回、巻島が登場するのはテレビではない。
なんとネットTVなのだ。
「犯人に告ぐ」は2003年出版でまだネット黎明期。
「犯人に告ぐ3」は2022年出版やから、ネット爛熟期やもんな。
この19年で世の中はずいぶん変わったな~。
巻島が出演したネットTVは視聴者参加型で、視聴者はアバターを作って参加できる。
「ニコニコ動画」と「アメーバブログ」を合わせたような印象だ。
致命的なミスを犯した淡野は、このメディアに一気に追い込まれる。
物語が終息に向かう瞬間で、読者は緊張感に包まれ、こう思うだろう。
いや、でも巻島も頑張ってほしいし・・・。
オーディブルで聴いていると、耳から伝わる音声で緊張感マックス。
淡野の苦しい息遣いも伝わって、心臓に悪いくらいだ。
成功すれば、1億総包囲網を仕掛けることができるメディア。
切り札が大成功した警察と、追われる身になってしまった淡野。
「犯人に告ぐ3」見どころ3 秋山の葛藤
今回、淡野の半生が見事に描かれていて共感する人、同情する人は多いだろう。
だがもう一人、確実に読者の共感を呼ぶ人物がいる。
秋山だ。
彼は巻島の部下だが、捜査一課の人間でもある。
いろいろな訳あって、本来なら巻島と一緒に左遷されるところを捜査一課に残ったという人物なのだ。
「捜査一課の人」でもあり「今は巻島の部下」でもあるという微妙な立場に立たされている秋山。
微妙な立場の彼は、この究極の選択を迫られるのだ。
- 捜査一課に残るために、そして自分や上司たちのキャリアの為に、警察官・人としての良心を売り飛ばすか?
- 自分だけでなく上司たちの悪事を、己の良心であばいて、警察官としての正義感を貫くのか?
「悪人にもなり切れないし、完全なる良心の持ち主にもなりきれない・・・」
そんな秋山の葛藤は、読者も思わず感情移入してしまうだろう。
また、様子のおかしい秋山に寄り添う巻島の態度も、上司の鑑。
最後は秋山も悩みに悩んだ末、1つを選ぶ。
秋山の決断は下巻の最大の見どころ。
怒涛のラストになだれ込むきっかけにもなるから、気をしっかり持って読もうな!
雫井修介「犯人に告ぐ3」まとめ
ネコ缶評価
文句ない作品なのだが、あえてケチをつけるならこれ
またここで終わらなかった。
「犯人に告ぐ2」で残したことは回収できた。
が、「犯人に告ぐ3」で出現した新しい疑惑を残したまま終わっているのだ。
心憎いまでの引っ張りよう。
もちろん4は出たら絶対に読む(多分聞く)。
ここから読んじゃったから、読み直したい方はこちら⇒「犯人に告ぐ」シリーズはこちら