アガサクリスティには「有名じゃないけど、とんでもなく面白い作品」が多い。
以前「5匹の子豚」をその例として出した。
「5匹の子豚」詳しくはこちらから
今回ご紹介する「満潮に乗って」もそんな作品のひとつだ。
戦争という不可抗力により、運命を翻弄される人たち、
あてにしていた遺産がもらえず、金銭的に右往左往する一族、
穏やかな日常を退屈に感じてしまい、危険な男性に惹かれる女性・・・
こんな「小説が面白くなる要素」を、殺人事件とうまく絡めて、素晴らしいミステリーにしている、それが「満潮に乗って」だ。
詳しくみていこう!
Contents
アガサクリスティ(ポアロ) 「満潮に乗って」 あらすじ
クロード家の人たちは、大富豪のゴードン・クロードの庇護のもと、何不自由ない暮らしをしており、それが永遠に続くものだと思っていた。
ところがゴードンは、若い未亡人・ロザリーンと電撃再婚。
そのうえ遺言を書き換える間もなく、空襲で死んでしまったのだ!
遺産を、新妻ロザリーンが一人占めすることに、納得できない一族たち。
そんな思いを胸に抱きながら、卑屈に借金を申し出る屈辱に耐えるクロード家。
だがロザリーンの後ろには、ならず者の兄デイヴィット・ハンターが控えており、涙ながらの無心も突っぱねられる。
そんな中、ロザリーンの前夫、ロバート・アンダーヘイが、生きているかもしれないという情報を、持ってきた人物・イノックが出現。
慌てるロザリーン兄妹。
だがしかし、イノックも誰かに殺されてしまう・・・。
ロザリーンの前夫は生きているのか?
そして遺産の行方はどうなるのか?
戦争がもたらした一族の悲劇に、ポアロが丁寧に向き合う。
アガサクリスティ(ポアロ)「満潮に乗って」感想
これ、傑作じゃなかろうか。
なぜなら・・・・
- 再婚後、新しい遺言状も書かずに死んだ大富豪
- 40歳近くも年の違う若い後妻(と、ならず者の兄)
- 大富豪に頼って暮らしていたがために、困窮する一族たち
- そしてそのならず者に惹かれてしまう、一族の娘・・・・
このお膳立てだけで、絶対に面白いだろうと思わせてくれるよな!
ちょっと詳しくみていこう。
満潮に乗って 面白ポイント1 戦争をうまく取り入れている
戦争は「津波のような勢い」で、沢山の運命を一気に変えてしまう。
そんな「戦争」を、うまく物語に取り入れているミステリーは、いろいろある。
ネコ缶、鮎川さんの中でこれが一番好きやな
クリスティの「満潮に乗って」もそのうちの一つだ。
クロード家の人たちは、戦争のせいで金銭的に苦労するのだが、お金以外にも悲劇はある。
リン・マーチモンドは、入隊する前は、頭脳明晰で決断力にも富んだ女性だった。
なのに戦後はこんなことを思う。
戦争の本当の恐ろしさは、決して肉体的なものではなかった(略)
「考えることをやめれば、ずっと楽に生きていかれるという事を知る」精神の記憶なのだ。
(略)リンは、自分の個人的な問題を把握することから顔を背けているような、心のありさまにぎょっとさせられている。
「満潮に乗って」 172ページ
戦争で「自分の意志で人生を考えること」をしなくなってしまったリンは、自分自身を持て余してしまうのだ。
他にも戦争により、金銭的に窮地に立たされたことで、その人間の本質が出てくるという事もある。
クロード家の人たちは、ロザリーンたちに頭を下げるが、内心は軽蔑している。
なのに、うまくお金を借りることができたら、もう安心とばかりに、庭師を雇おうかと言い出すしまつだ。
これはポアロもこう言っている。
ネコ缶も全く同感だ。
人間の本質というものは、試練の場においてこそ、はっきりと表れるものです。
つまり自分の足で立つか、あるいは転ぶかという瀬戸際に直面したときにです。
「満潮に乗って」 285ページ
それは、できれば若い時にやっておくべきともポアロは言っている。
満潮に乗ってが出版されたのは1948年。
クリスティ自身が、こうした経験をしたり、周りにこんな人がいたのだろうと、思わせてくれるエピソードだ。
満潮に乗って 面白ポイント2 タイトルを内容にうまく取り入れている
「満潮にのって」というタイトルは、シェイクスピアの「ジュリアス・シーザー」のこの1文から引用されている。
冒頭に書いてあるので書いておく。
およそ人の行いには潮時というものがある。
うまく満潮に乗りさえすれば運は開けるが、
いっぽうそれに乗りそこなったら、
人の世の船旅は災厄続き、
浅瀬に乗り上げて身動きがとれぬ。いま、われわれはあたかも満潮の海に浮かんでいる、
せっかくの潮時に、流れに乗らねば、
賭荷も何も失うばかりだ。「ジュリアス・シーザー」
(4幕3場)
この一部が本文に時々出てきて、話をグッと締めてくれる。
なぜなら、潮から潮、いい潮にその都度乗り換えながら生きている人物が、この物語の中で重要な役割をしているからだ。
そしてポアロが、物語のラストでこうつぶやく。
満潮に乗りさえすれば運は開けるのだ。
確かに潮は満ちます。
が、それはいつか引くときもあるのです‥‥。
容赦なく人を引きずり込み、海の藻屑と消えさせる・・・。
「満潮に乗って」420~421ページ
ポアロのこの一言が、ジュリアス・シーザーの答えと見事にリンクしている。
この冒頭の詩とポアロの2つの文章が、対句のようになっていて「満潮に乗って」の内容をすべて表現しているのだ。
満潮に乗って 読みこなしポイント 殺人事件の起こった日の時系列
満潮に乗っては、人間関係のやり取りだけで面白いのだが、事件の起こった日の、時系列もしっかり把握しておくことが大事。
事件前後のデイヴィットとローリィの足取りを書いておく。
※ここに出てくるイノック・アーデンとは、ロザリーンの前夫ロバート・アンダーヘイを知っていると称する人物。
※●は物語が進んでから出てくる供述
デイヴィット
イノック・アーデン、町に到着
↓
次の日の朝、デイヴィット宛にイノック・アーデンからの怪しい手紙
↓
10時32分の電車で、ロザリーンのみロンドンへ行かせる
↓
・夜にデイヴィット、イノック・アーデンに会いに行く。
・イノック・アーデンが金を要求。
・デイヴィットは、火曜日に持ってくるという約束をする
(この話をビアトリスが立ち聞き。その後ローリィに言う)
↓
デイヴィット、ロンドンのロザリーンのところへ戻る
↓
火曜日、17時30分、ロンドンからデイヴィット到着
↓
●19時25分に町を出たが、汽車に乗り遅れる
●21時20分しか汽車がないので散歩
↓
21時15分、デイヴィット、リンと偶然会い、こう言う
↓
(リンのもとにケイシイ叔母から電話)
↓
●デイヴィット、ロンドンに22時45分に到着、23時にはロザリーンのところに戻る
↓
23時5分すぎ、いったんロンドンから電話がリンの元にあったが切れる。
その直後の電話はデイヴィットから。
1948年当時の、電話事情がよく解らないので、「?」と思うこともあるが、そこはまあ良しとしよう。
お次はローリィだ。
ローリィ
火曜日20時、ビアトリスからの手紙を見たローリィは、ビアトリスに会いに来る
↓
20時20分頃 弁護士をしている叔父ジャーミィ・クロードの元へ行く
↓
20時40分 ジャーミィに会わずに帰る
↓
●その後、イノックの元に行く
↓
●21時少し前、あまり話をしてもらえず帰る
最初の殺人事件が起こったときの、2人の時系列をしっかり把握しておくと、読みやすくなる。
アガサクリスティ(ポアロ)「満潮に乗って」まとめ
ネコ缶評価
文句なしに面白い。
物語が面白くなるお膳立ては、もう万全。
これだけの内容を盛り込んで、なおかつ事件、なおかつポアロの登場まで入れたら、消化不良になるところ。
でもそれは脂の乗り切った女王、実にうまく書いてくれていた。
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