ネコ缶は以前、こんなミステリーはちょっと苦手と言っていた
→ネコ缶プロフィール
これほど嫌ではないが、少々敬遠気味のジャンルはひとつある。
それはこれだ
「時代劇風のもの」
歴史は大好きなんやけど、大河ドラマは勿論、なぜだか普通の小説でも読まない。
史実のドキュメンタリーは大好きなんやけどな
だか・・・今回ご紹介するのはこちらだ。
「黒牢城」
バリバリの時代物。
だが「このミステリーがすごい」2022年国内編NO.1であり、直木賞受賞作でもある。
評判の高さに、恐る恐るチャレンジしてみた結果・・・・これだった
メッチャ面白いやん!!!
直木賞も、このミスNO.1も大納得の良作だった。
詳しくみていこう
Contents
米澤穂信「黒牢城」 あらすじ
(↑これは大阪城ですね。イメージの為です)
時は戦国。
荒木摂津守村重は、仕えていた織田信長から離れ、反旗を翻すことにした。
とはいえ相手は飛ぶ鳥を落とす勢いの信長、まともに戦っては勝ち目がない。
そこで中国地方の毛利氏に援軍を頼み、有岡城に立てこもって彼らの到着を待つことにした。
そんな有岡城に現れたのは、織田信長の家臣の黒田官兵衛。
村重を説得するために城を訪れたのだが、交渉は決裂。
官兵衛は有岡城で囚われ、地下牢に幽閉されることに。
そのしばらく後、毛利群を待つ有岡城で奇妙な殺人事件が起こる。
人質で匿っていた、自念という人物が殺されていたのだ。
自念が入っていた納戸は万全の警護のうえ、雪が降っていた庭には足跡もない。
疑心暗鬼になる部下たち。
この事件を解決しなければ、結束の瓦解は免れない。
村重はそう思い、捜査や現場検証をするも、犯人は解らずじまい。
途方に暮れた村重。
彼は知将で名高い官兵衛の元、地下牢へと足を運ぶのであった・・・
米澤穂信「黒牢城」 感想
実によくできた作品。
時代劇風の作品が苦手なはずのネコ缶が、最後にはすっかり引き込まれていた。
ミステリーの体をなしているが、物語は大きく3つのジャンルに分かれる。
- 歴史小説
- ミステリー
- トップの孤独を書いた物語
それぞれに1冊分の面白みがあり、読み終えた時には達成感すら感じるだろう。
この3つを詳しくみていこう。
1 「黒牢城」歴史小説としての面白さ
時代設定は戦国時代の後半。
本能寺の変の4年前だ。
信長の勢いがマックスではあったが、中国地方も四国も九州・東北も、まだ力ある武将がおり、どうなるか解らない時。
ネコ缶達は「神の目線」でその後を解っているから余裕で読めている。
だが当時の人たちは、こんな思いで戦々恐々だったろう。
こんな緊迫感や、宗教・村の対立、今もいるような人物の生きざまが鮮やかに描かれており、歴史小説として読んでも非常に面白い。
ホンマにそうやったんやろな
そして圧巻なのがこれ
「当時の弱者(女性や子供など、一市民)」がいかに犠牲を強いられたかが村重の妻・千代保の口を借りて切々と語られること。
涙なくしては読めない。
群雄割拠と言えば聞こえはいいが、その陰でいかに多くの人が犠牲になっていたか・・・。
そこもキチンと描いた所に、作者の思いやりを感じる。
2 「黒牢城」ミステリーとしての面白さ
「黒牢城」の謎解きはこの4つだ。
- 人質の自念を殺したのはだれ?
- 敵の大将の首はどっち?
- 僧を殺したのはだれ?そして僧が持っていた茶器を奪ったのはだれ?
- 罪人を、処刑される前に撃ったのはだれ?
モチロン荒木村重も城主らしく、捜査に乗り出すのだが力およばず。
そこで助け舟を出すのが、地下牢で幽閉されている囚人・黒田官兵衛なのだ
このぶっ飛んだ設定の裏には、実はこんなエピソードがあるのだ。
もちろん、有岡城でこんな事件が起こったり、また官兵衛に相談をしたなんてことはなかっだろう。
だが幽閉されたのは、知将として名高い、官兵衛。
だったらこう思わないだろうか。
史実にほんの少しのフィクションが加わることで、より真実っぽくなる。
それが「黒牢城」のミステリーのミステリーの神髄なのだ。
だが官兵衛は、安楽椅子探偵の役割だけではない。
官兵衛の本当のすごさ(怖さ)が解るのはラストだ。
官兵衛と村重の対決があるのだが、そこで「なぜ官兵衛はいちいち村重を助けるのか」の意味が解る。
思わずヒエーっと唸ってしまう事請け合いだ。
3 「黒牢城」トップの孤独を知る面白さ
1・2だけでも十分面白いのだが、実は黒牢城を面白いと感じる一番の要因はこの3かもしれない。
トップに立つものの悲哀が、実に丁寧に描かれているのだ。
戦国の世、自分をもっと試したいと感じ、信長の元を出る村重。
そして毛利の下でやってみたい、一か八かのチャレンジをしてみたいという賭けに出る。
そして毛利に使者を送って城に立てこもり、毛利の到着を待って織田と一戦交えようとするのだが・・・・。
なんと、いつまでたっても毛利は来ないのだ。
部下の緊張感も次第になくなり、ただよう倦怠感。
織田勢に物流や人の流れを抑えられてしまい、完全に孤立。
ダラダラとやることもなく、ただただ兵糧を食いつぶす日々・・・・・・。
これは辛い。
何もできずに待つだけというのは辛い。
そして、そのただなかにいるトップはどうしようもなく辛い。
一戦交えて散ることも出来ず、かといって毛利も来ない。
連絡をしようと使者を送ろうとするも、なかなか難しい(事件にもなる)。
次第に募る村重の焦りと、部下の離反する様子が実にリアルだ。
今も十分ありえるし、共感できる人も多いだろう。
荒木村重は摂津守で有岡城の城主にはなったが、以前からそこにずーっといた生粋のお殿様ではない。
戦いに勝つことでここまで来ただけの存在なので、戦って勝つことで人を引っ張るしかないのだ。
村重は聡明だから、自分もそうなるって解っているのも辛すぎ。
トップが、とあることから求心力をなくし、人が離れていく、判断を間違ったかもしれないが、今更どうにもできない・・・といった様子が実にリアル。
ミステリーの形をとってはいるが、メインはむしろこれだったのではないだろうかとすら訝ってしまうくらいだ。
若い作家さんたちが賞を取り、もてはやされるのはもちろん良いことだ。
だがこうした、大人の作家さんの経験や知識のスパイスが効いたミステリーは、本当に面白いとネコ缶は思うのだ。
米澤穂信「黒牢城」まとめ
ネコ缶評価
文句なし。
面白かったし泣けた。このミスNO.1は嘘じゃない。おススメだ。
今回、おススメ出来ることがもう1つ。
実はネコ缶今回、この作品を実は「読んで」はいない。
オーディブルで「聞いた」のだ。
朗々とした声で読み上げてくれて、登場人物をたやすく聞き分けることが出来たので、とても良かった。
眼精疲労も無く、最後まで行けたのはこのオーディブルのおかげだ。
でもオーディブルのおかげで、良いミステリーを見逃さずに済んで良かったで!
難しそうなミステリーはオーディブルやな!
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