ちょっとびっくりするようなタイトルの本を見つけた
「ザリガニの鳴くところ」
このタイトルを観た時、こう思った方も多いのではないだろうか。
もちろんザリガニは鳴かない。
「ザリガニの鳴くところにでも隠れた方がいい」
「ザリガニの鳴くところまでいってごらんなさい」
などという表現で出てくるのだ。
ところで「ザリガニが鳴くところ」の作者はなんと動物学者。
湿地の保全活動も行い、ネイチャーにも論文を発表する学者さんだ。
彼女が書いた初のミステリーが「ザリガニの鳴くところ」なのだが、いきなり「このミステリーがすごい2021年」の海岸版2位になったというこの作品。
詳しくみていこう。
「ザリガニの鳴くところ」あらすじ
カイアは湿地で父親とひっそり暮らす少女。
元々は家族で済んでいたのだが、母も兄姉も皆出ていってしまったのだ。
父親は働かず、飲んでばかり。そしてお決まりの暴力だ。
そんな父親にカイアはおびえて暮らし、学校にも行かせてもらえない・・・。
ある日の事、カイアはガソリンを手に入れボートで湿地に出ることを覚える。
父親もそんなカイアに釣りを教え、穏やかな暮らしがほんの少し訪れたある日・・・
父親までもが、突然帰ってこなくなってしまう。
事故なのか、何かあったのか解らないまま、湿地で一人ぽっちになるカイア。
黒人のジャンピン夫妻などに助けられながら、なんとか暮らしていた。
そんな中テイトという少年に出会う。
彼は何故かカイアに親切にしてくれ、読み書きも教えてくれる。
カイアはテイトに惹かれていき、またカイアの世界が広がっていく・・・。
美しい湿地を舞台にした、動物学者の初のミステリー!
「ザリガニの鳴くところ」感想
人生ハードモードな少女の話から始まり、気の毒な子供の話が苦手なネコ缶は少々ひるんだ。
⇒プロフィール
オーディブルで「キュレーターの殺人」聴こっかな~。
などと考えたが、本のページはまだまだ序盤。
「湿地」と「沼地」の2部に分かれていることだし、きっとどこかに救いはあるだろうと、おそるおそる期待して読んでみたら・・・・
中盤以降は、多彩な面白さが広がっていた。
見どころを詳しくみていこう。
見どころ1 カイアの物語
ハッキリ言おう。
「ザリガニの鳴くところ」はミステリーではなく「カイアと言う湿地に生きる女性の一代記である」
しょっぱなからハードな人生ではあるが、カイアは決してくじけない。
学校にも行かず、湿地で生きる人生を選ぶことにより、最終的には誰も無しえない仕事も手に入れる。
これは序盤の苦労が報われる瞬間で、ここまで読み進めてきた読者は胸をなでおろすだろう。
もちろんいいことだけではない。
人と出会う事により恋をし、その恋ゆえの喜びも苦しみも味わっていく。
カイアを悲しみに突き落とす人物との出会いも、巻き込まれた(?)殺人事件も湿地ならではのものだ。
「ザリガニの鳴くところ」は湿地の学者、そして女性でなければ絶対に書けなかっただろう。
湿地で生きる女性の人生とミステリーを合わせたところ。
ここに「ザリガニの鳴くところ」の大きな面白さがあるのだ。
見どころ2 はびこる差別
合衆国における差別は、この年代(1950年代~1970年くらい)は、まだまだ根強く残っていたという知識はあった。
だが白人のカイアが受けていたのは、なんと「貧乏白人」という差別だったのだ。
さっさとでていけ この湿地の貧乏人が
「ザリガニの鳴くところ」p76
森じゅう、貧乏白人だらけだからな
「ザリガニの鳴くところ」p82
そこには、かわいそうな少女に対する哀れみはない。
いろいろなことをして行き場をなくし、最後に行き着くのが湿地・・・。
どうしようもない人間たちの掃きだめ・・・という定義が、ここにはあったのだ。
差別にはカースト制のようにいろいろ段階がある・・・とネコ缶は思う。
世界中で優遇されるのは、いつでも「裕福な白人」なのだ。
何かをやらかしてしまい、さげすまれてしまうのはある意味自己責任というところもある。
だが生まれた時から、訳も解らずそれを押し付けられるのは違うのでは・・・と複雑な気持ちになってしまうのだった。
福祉の手はあったが、十分ではない時代。
カイアのような子は、多かったのかもしれない。
少々胸が痛む要素ではある。
見どころ3 ミステリーとしての面白さ
さて「このミス」でとりげられているのだから、ミステリー要素も当然ある
物語は「湿地」と「沼地」の2部構成になっているが、さらにカイアの幼い頃(1950年前後~)と殺人事件が起こった年(1969年)も交互に描かれている。
被害者はカイアをもてあそんだ、村の名士の息子チェイス。
櫓から転落して死亡したのだが、当然カイアに疑いの目はいく。
どう考えてもカイアの殺人としか思えない状況の中、カイアが犯人とも言い切れないという微妙な状態が続く。
湿地の物語は後半、リーガルもののミステリーと変化するのだが、この辺りは「杉の柩」に似ている。
カイアが犯人なのか?
はたまたこれは事故なのか?
テイトとカイアは結局結ばれるのか?
これらが後半の最大の見どころのなのだが・・・
残念ながら、トリックはかなり甘いと言わざるを得ない。
カイアのアリバイについては、なるほどと思う面もあるが、この疑問が残る。
- チェイスが櫓に行った理由は?カイアが呼び出したの?いつ?どうやって?
- 時間的にカイアの行動は成り立つのか?呼び出す時間も合わせて?
- 指紋をどうしたの?拭いたの?手袋?
とはいえこれはもう仕方ない。
ミステリー専門の作家さんではないし、先ほども述べたがこれだから。
「ザリガニの鳴くところ」は「カイアの一代記」
ミステリーは、カイア一代記のスパイス。
そう思って読もう。
「ザリガニの鳴くところ」まとめ
ネコ缶評価
ミステリーとして期待して読んでしまったネコ缶は、少々拍子抜けしてしまった感がある。
だが過酷な運命の中、いろいろな人と出会い、傷つくことはあっても強く生きていくカイアは「風と共に去りぬ」のスカーレットすら連想させる
このミステリーがすごい!で賞を取った本に興味がある方はこちら⇒どれを読んでも間違いなし!「このミス」受賞作!