前回ご紹介した「優等生は探偵に向かない」は、「文明の利器」を駆使して描いたミステリーだった。
ポッドキャスト、SNSが乱れ飛び、まさに「21世紀ならではのミステリー」だった。
だが今回、その「優等生は探偵に向かない」をさらに上回るテクニカルなミステリーを見つけた。
それが今回ご紹介するこちら
「ポピーのためにできること」
これは物語のほぼ85パーセントが「メールのやり取り」で出来上がっているのだ。
会話のみで成り立っているのだ。スゲエ。
日本版ではこの構成は「ルビンの壺が割れた」であったが、質・量ともに圧倒的にこちらが上
「このミステリーがすごい」の2023年度・海外版第3位に輝いているのだ。
詳しく内容をみていこう!
こちらも良かったらどうぞ~↓
「ポピーのためにできること」 あらすじ
マーティン・ヘイワードは、町の名士。
一族でザ・グレインジという店を経営しているほか、アマチュア劇団「フェアウェイ」を主宰し、町の皆から慕われて尊敬を集めていた。
そんなある日の事、マーティンの孫・ポピーが難病の脳腫瘍を患っていることが判明。
劇団の皆にそのことを打ち明け、治療に多額の費用が掛かることも話した。
すると劇団の1人が寄付を集めるイベントを立ちあげ、大成功。
ポピーのクラウドファンディングなども始まり、寄付活動はますます軌道に乗り始めた。
だがそこから、詐欺などのトラブルも多発。
そしてそこから、もめごとも起こりだし、最後にはなんと殺人事件まで・・・・。
様々な人間模様がメールのやり取りを通して浮かび上がる中、真実はどこに隠されているのか?
ジャニス・ハレットの衝撃のデビュー作!
「ポピーのためにできること」 感想
冒頭でも触れたが、物語の85パーセントがメールのやり取り。
5パーセントがチャット形式のやり取りで、残り10パーセントが普通の文章だ。
これだけでもちょっと読みにくいかな~と思うのだが、それに加えてこれ。
登場事物がメッチャ多い!
ヘイワード家とレズウィック家、マクドナルド家とウォルフォード家と医療関係者とその他・・・と大雑把に分かれてはいるが、総勢44人という数だ。
もう年で、カタカナの名前覚えにくなっとるしな~
おそらく皆さんも、この異色のミステリーにそう思うかもしれない。
だが大丈夫!!
心配ご無用!!
その懸念は、50ページも読んだらすぐに吹き飛ぶ。
44人の登場人物とはいえ、主力メンバーは10人程度。
主力メンバーを覚えたら、あとは一気に物語に引き込まれていく。
そのころにはテキスト形式の文章も、クセになっているだろう。
そして気づいたらラストまで来ていた・・・そんなミステリーなのだ。
詳しく見どころをみていこう!
見どころ1 サスペンス要素が半端ない
物語の進め方は「ナイルに死す」を思わせる。
ミステリーのはずなのだが、人がなかなか死なない。
延々と登場人物のエピソード(「ポピーの為に出来ること」は主に寄付活動とお芝居のエピソード)が続いていくのだが、これがなかなか面白いのだ。
こう思う人も多いかもしれない。
ただ「ポピーのためにできること」はそこにサスペンス要素が加わる。
ヒタヒタと何かヤバい気配が近づいてくる・・・そんなハラハラした緊迫感が読めば読むほど深まるのだ。
一応455ページで(遅い!)人は死ぬ。
だが凄惨な現場や密室トリックがあったりはしない。
というくらい、1つのエピソードだった。
その後はリーガルミステリーな謎解きになるが、ここに至るまでのヒタヒタ迫る恐怖。
これがもしかしたら、この「ヒタヒタ感」が「ポピーのためにできること」の最大の面白さなのかもしれない。
見どころ2 異様なキャラが存在
見どころ1でヒタヒタせまる恐怖が見どころ・・・と述べたが、実は恐怖はもう1つある。
「イザベル」(通称イッシー)という登場人物だ。
このイザベルという人物、「ポピーのためにできること」でひときわ異彩を放っている。
キャラクター的にはこんな感じで、なんらワルイ人ではない。
- 無口で少し要領が悪くて、皆からもあまり大事にされていない
- 面倒見がよく、遠くアフリカから来た新参者のサム夫妻が新しい地域や職場に溶け込めるように献身的に世話をする。
- 演劇が好きで、精力的にフェアウェイ劇団で活動している。
・・・と書くと、特に害のない、どこにでもいそうな人物な気がするのだが・・・
この人、ものすごく怖いんですよ!ええ奥さん!!!!
「ポピーのためにできること」には、ヒタヒタ迫る恐怖がいくつかあると述べた。
イッシ―の恐怖は一味違う。
物語の中では「ちょっとなんヤバい子」なのだが・・・。
ラスト1ぺージで、恐怖のドン底に落としてくれるのだ。
本人至って悪気ないけど
「どこにでもいるフツーの超怖い人」
イッシ―にはそんな恐怖がただよう。
「ポピーのためにできること」 まとめ
ネコ缶評価
文句なしに面白かった。
マイナス0.5にしたのは、最後のリーガルミステリーの所。
物語に書かれていないところが、いきなり重要な点として出たことも残念。
とはいえ、やはり「このミステリーがすごい」のトップ3に入るだけの圧倒的充実感。
皆さんに自信を持ってお勧めできる1冊だ。
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