夏休み・・・といえば自由研究。
小学生の息子がいるネコ缶(2022年現在)、これまでにも何度か手伝いました。
さてこの小学生泣かせの自由研究、なんとこのテーマを「自分の住む村で起こった殺人事件」にした女子高生がおる。
それが今回ご紹介する「自由研究には向かない殺人」や。
2022年「このミステリーがすごい」の海外部門2位の作品。
前評判は十分の「自由研究には向かない殺人」
結果はいかに?
詳しくみていこう!
Contents
ホリー・ジャクソン「自由研究には向かない殺人」あらすじ
ピップは、リトル・キルトンに住む元気な高校3年生女子。
進学を前にした自由研究のテーマを、なんと「リトル・キルトンで5年前に起こった殺人事件」に決めた。
静かな村で起こった事件とは、こんなものだった。
学校のアイドルだったアンディ・ベルが、ある夜家を抜け出して行方不明に。
そのしばらく後に、アンディの彼氏・サルが森の中で死体で発見される。
サルはアンディが行方不明になった夜、仲間とパーティをしていた。
そして警察の調べで、サルが仲間にこう言っていたことが判明する。
「本当は10時半にパーティを出たが、警察には12時に出たと言ってくれ」
サルの死体からはアンディの血や携帯電話が見つかり、事件はこう結末を迎えた。
サルがアンディを殺し、その後自殺・・・・
この事件からもう5年がたっているが、アンディの行方はおろか、死体もまだ見つかっていない。
だがサルの人柄をよく知るピップは、この結果に満足していなかった。
そこでピップはサルの弟ラヴィを説き伏せ、この事件の真相を2人で追う事に決める。
知恵を絞り、出来ることから捜査を始めた2人。
すると「不幸な死を遂げた、悲劇のアイドル・アンディ」の裏の顔が明らかに。
驚く2人も、事件の闇に引き込まれていく・・・・。
ホリー・ジャクソン「自由研究には向かない殺人」感想
本を読んで、ひしひしと感じることはこれ。
トミー&タペンスを思わせるピップとラヴィ。
時に危険なことも顧みず、サルの無実と無念を晴らそうとする若い2人には誰しもエールを送りたくなるだろう。
見どころを紹介しよう!
「自由研究には向かない殺人」みどころ1 ピップとその家族の明るさですべてがOK
「自由研究には向かない殺人」は、実はこんな暗いことが列挙されている。
- 殺人者の汚名を着せられたサル家・ラヴィへの陰険な嫌がらせ行動
- ドラッグやお酒がふるまわれる(未成年者も参加)パーティが頻繁に行われる様子
- 完璧に見えるけれど機能不全な闇を抱える家族
- 黒人差別
などなど。
ラヴィの家に、ひどい罵りの言葉で落書きをされるなど、日本でもありそうなことだ。
イギリスにもやはり黒人差別はあり、ラヴィ(インド人)もこんな事を言っている。
その上、茶色い肌の男(ラヴィ本人のこと)が、白人一家の家に押し入ったとなると、どれほどの厄介ごとが待っているが見当もつかない
「自由研究には向かない殺人」p307
ピップの義理の父親もナイジェリア人だが、いろいろあったことをピップも知っている。
新聞記者・スタンリーのインド人差別も強烈だ。
これだけ見ていると、あまりの暗さにどんよりした作品になるところだ。
だがそこを、ピップとその家族(主に義父のヴィクター)たちが見事に救っている。
ピップが、心を閉ざしているラヴィに協力を申し出る場面。
ピップはお手製のマフィンを持ち、ラヴィ宅へ行く。
「マフィンを焼いてきたの」
「口を割らせるための賄賂マフィン?」
「レシピにはそう書いてあった。効き目ばつぐんだって」「自由研究には向かない殺人」 p58~59
小説のごく最初の場面だが、このユーモアあふれるやり取りで、読者はもうピップの事が好きになる。
義父のヴィクターも負けていない。
ヴィクターは静けさとは無縁の人。
(略)大笑いすると、あまりの声の大きさに周りの人がびくりとする。クリスマスイヴには(略)プレゼント入りの靴下を手に、廊下をつま先立ちで歩く音でピップは必ず目を覚ます。
「自由研究には向かない殺人」p26
「夕食は、ピザにしていいってことだよね」
「もちろんだとも」ヴィクターはにやりとして尻をたたいた。「ピザなくして、どうやってこのおケツを維持すればいいんだい?」
「自由研究には向かない殺人」P30
この家族の明るさで、物語の暗さが一掃されているのは間違いない。
ドラック+レイプのパーティなど、えげつない事が底にある内容なのだが、読了後に後味が悪くないのはピップ(と、その家族)のおかげ。
純粋にミステリーを楽しむことができるのだ。ありがたい。
「自由研究には向かない殺人」見どころ2 素人+高校生捜査でもきちんと真実へ
素人探偵が事件を捜査(警察や探偵と連携することもなく)・・・というのは相当ハードルが高い。
ましてや、いったん決着している事件なのだ。
それを高校生が・・・・となると、みんなこう思うよな。
でもそこはオックスフォード大学を目指す秀才のピップ。
メールであちこちに「取材」を申し込むだけでなく、イマドキの子らしくパソコンやスマホを駆使して捜査するのだ。
アンディの親友(取り巻き)のエマとクロエの存在へは、フェイスブックを使ってたどり着き、ある人物の強烈に怪しいところもフェイスブックの投稿から見つける。
また、ピップに送られてくる脅迫状の存在も、パソコンとプリンターを連携させて印刷場所を特定。
プリペイドSIMでとある人物になりすましてラインをし、情報をつかんだりもする。
極めつけが、ラストで大活躍するGPS機能の付いた携帯電話。
あまり詳しくは書けないが、これ使いまくることで犯人+重要人物の居場所も特定。
おまけにピップの命も助かるのだ。
とはいえ高校生らしく、人物相関図はコルクボードと赤い糸に画びょうで作ってるアナログな場面もあるので、ちょっと安心。
「自由研究には向かない殺人」見どころ3 若々しい正義感
学生にとって一番大事なものは何だろう。
それはやはり「親友」なのではないだろうか。
捜査を始めると、ピップは親友の家族を疑わなければならない状況になる。
そこでピップは悩む。
そして終盤にさしかかると、5年前のサルの事件とは別の(そして全く表沙汰になってない)事件が判明。
これを警察に突き出すと、親友の家族が木っ端みじんだ。
ここでもピップは猛烈に悩む。
だが、ここからのピップは本当にすごい。
「世間一般の正義」ではなく「自分にとって大事な正義」を貫き通すのだ。
これは賛否両論あるかもしれない。
事件のもみ消し、犯人隠避にもつながるからだ。
と言う人もいるだろう。
ネコ缶も少しだけ思う(なのでここだけマイナス0.5)。
ピップもそのあたりは解っている。
リトル・キルトンにはまだいくつかの謎が残されている。
答えが見つかっていない疑問や、隠された秘密も。(略)けれどもピップはすべての事に光をあてるのは無理だと悟り、受け入れた
「自由研究には向かない殺人」567
だが大人達(警察だ!)でもなし得なかった偉業、よくぞここまで来たという事で、そこは大目に見てあげたいと思う。
そしてピップのラストのスピーチは重い。
私たちは一団となって、一つの美しい人生をモンスターの話に変えてしまいました。
家族の家を幽霊屋敷の変えてしまった、いまこの瞬間から私たちはこころを入れ替えなければなりません。
「自由研究には向かない殺人」p571
殺人事件加害者の家族へのいやがらせ、黒人差別などさまざまな偏見。
サルの事件がみんなに投げかけたものは大きい。
ピップの言いたかったことも、ここに集約されていないだろうか。
ピップは警察でも探偵でもない。
ホリー・ジャクソン「自由研究には向かない殺人」まとめ
ネコ缶評価
なんといっても、ピップの明るさと若々しい正義感がいい。
また、舞台がイギリスなのも良かった。
ドラッグのパーティ、レイプ、差別、機能不全(虐待の気もある)家族・・・・
舞台が日本なら、いくら明るいキャラの探偵が主人公でもここまで後味は良くなかっただろう。
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