ミステリー1本でここまで来ているネコ缶、コロナパンデミックを受け、今はこれを読むべきと手に取った本がこれ。
カミュ「ペスト」!
もともとネコ缶は「100分de名著」が好きでよく見てた。
そこでこの、カミュ「ペスト」が紹介されたので、知っていたのだ。
いったんかかったら最後・・・みたいなイメージもあるで。
もちろん「100分de名著」を見た当時は、コロナの影も形もない時だったから「ふーん」と思っていただけ。
でも2020年4月に、さすがにこれはまずいと思い出したのが、このカミュの「ペスト」だったんや。
読んでみるともう圧巻。
書かれていることは、今から70年前のこととは思えない。
これから「コロナはどうなっていくんだろう・・」と不安な方に向けて、「コロナは、どうなっていくのかを、カミュのペストから学ぼう」というテーマで書いていこうと思う。
Contents
カミュ「ペスト」を読む前に、ペストってどんな病気なの?
本題に入る前に、ペストはどれだけ怖い病気かを書いておこう。
ペストはネズミやネコ、イヌを宿主からするノミからうつる伝染病だ。
14世紀の大流行の時には、合計1億人が死亡したと言われている。
全滅した村や町もあったとか・・・怖すぎるわ。
ペスト 症状
病状はまず最初に高熱が出る。
そしてその後に「腺ペスト」「肺ペスト」「敗血症ペスト」に別れる。
1.腺ペスト
腺ペストはリンパ腺が侵される。
ノミにかまれた近くのリンパ腺が腫れて、ペスト菌が肝臓や脾臓で増殖して毒を吐く。
それで数日中に死ぬのだ。
2.肺ペスト
腺ペストを発症している人が、二次的に起こすのが肺ペスト。
ペスト菌が肺に回って肺炎を起こし、呼吸困難に陥り死ぬ。
3.敗血症ペスト
腺ペストを放置したままにすると、ペスト菌が血液によって全身をまわり、敗血症を起こし死亡。
手足の壊死をおこし、全身が黒いあざだらけになる。
ペストを「黒死病」というのは、敗血症ペストが由来なのだろう。
2020年の今でも特効薬はなく、予防と対処療法でもって治すしかないという、怖い病気なのだ。
昔は、今ほど医学が発達していないから「かかったら最後」くらいの勢いだったに違いない。
ペストの原因が解り、正しい予防法が解るようになるまでは、北里柴三郎先生の登場を待つしかなかったのだ。
そんな「人類を何度も滅亡させかけた疫病」それが「ペスト」なのだ。
今回この記事はここを参考にしています→ペストとは
カミュ「ペスト」あらすじ
194×年、アルジェリアのオランという町で奇妙なことが起こった。
何匹ものネズミの死骸が、立て続けに見つかったのだ。
不審に思うオランの住民たち。
日を追うごとに、ネズミの死骸は多くなっていく・・・。
そしてとうとう、体が黒ずみ、高熱を出して死んでいく人間が多発したのだ!
ペストと認めたがらない政府。
一刻の猶予も出来ないという医師たち。
決定を先延ばしにしているうちに、死者の数はどんどん増えていく・・・・。
そしてとうとう植民地総督府からの伝令が入る。
「オランの街を封鎖せよ」
この日から電車も船も止まり、手紙すら禁止され、オランの町から出て行くことも、帰る事も出来なくなってしまう。
閉ざされた町の中で、ペストと戦うことを余儀なくされた住民たち。
こんな時、人はどう行動していくのだろうか?
オランの人たちはどうなっていくのだろうか?
カミュ「ペスト」から、コロナの行く末と終焉を考える
カミュ「ペスト」を非常に興味深く読ませてもらった。
「ペスト」は、様々な位置に立って読むことができる。
主人公の、医者・リウーの立場、旅行者ランベールの立場、犯罪者コタールの立場・・・。
もしくは「伝染病の蔓延する町に閉じ込められた時の人間がどうなっていくのか」の立場。
立ち位置を変えて読むと、何度読んでも新しい発見があり面白いのだ。
今回はコロナの折なので、「パンデミックの行方と終焉」の立ち位置で、カミュのペストを「前編・中編・後編」に分けて読んでいこうと思う。
カミュの「ペスト」からコロナの行方と終焉を読む 前編
まず「自分の町で全く未知の、あるいは特効薬がない病気」が流行ったという事になったらどうなるだろうか。
小刻みにみていこう。
ペスト 前編1
コロナの初期のように、未知のウィルスが見つかったことを聞いたら、まず人はこう反応するだろう。
そしてあまり考えないようにして、毎日の暮らしにいそしむはずだ。
ネズミが大量に死んだというときも、オランの住民たちは不安に思いながらも、極力かかわらないようにしていた。
約8000匹の鼠が拾集されたことを報じ、市中の不安は頂点に達した。
(略)ところが翌日通信社は、この現象がぱったりやみ、鼠害対策課は問題とするに足りぬ数量の鼠の死骸を、拾集したに過ぎなかったと報じた。
市中はホッとした。
「ペスト」25ページ
これは世界中、どこでも同じ行動をするだろう。
恐怖を感じるような出来事、今の生活をひっくり返すような怖い事があっても、信じたくない。
だから見ないようにする、考えないようにするのだ。
ペスト 前編2
少しずつ、奇妙な症状を示す病人が出てきても、まだ人は認めようとしない。
政治家も、ある程度権力のある医者も、いざペストと認めたら、その後の責任を取らないといけなくなる。
だから極力認めようとしない。
そして最前線にいる医者(リウー)と政治的権力は対立する。
リシャール(権力を持つ医者)は何事も暗い方にばかり考える必要なないし(略)伝染という事も証明されたわけではない、という意見であった。
(略)
それがペストであることを公に確認する必要がある。
ところがこの点に関して確実性は必ずしも十分でない。したがって慎重考慮を要すると。「ペスト」73~74ページ
これは2020年と、何か変わることがあるだろうか?
これは本当に、物語上の世界のことだろうか?
手を打たない間に、ペストはどんどん町の奥深くに進行していくのだ
カミュの「ペスト」からコロナの行方と終焉を読む 中編
のんきに構えていたオランの人たちも「町を封鎖」という段になって、ようやく「ペストが自分自身の事」として理解されるようになる。
列車は止まり、船は来なくなり、町から出ていくことも、出ていった人が帰ってくることも許されなくなった。
緊急事態宣言が出てから、ようやくコロナが日本の事、自分の町のことだと理解した日本人と同じなのだ。
ここも細かく見ていこう
ペスト 中編1
そこからの描写がまたいい。
まだまだ初期段階のときはこれだ。
そういうわけで、ペストがわが市民にもたらした最初のものは、つまり「追放」の状態であった。
(愛する人と離されてしまい)何の役にも立たない記憶を抱いて生活するというすべての囚人、すべての流刑者の深刻な苦しみを味わった。(略)しかし、流刑といっても大多数の場合、それは自宅への流刑であった。
「ペスト」103ページ~105ページ
「自宅への流刑」この素晴らしい一言が出てくるカミュ。
ペスト 中編2
だが、ここに至っても、まだまだ今までの快適な生活を、容易に変えられるものではない。
(町がひっそりとして、今までと変わってしまっているのに)市民たちは明らかに、彼らの身に起こったことを容易に理解しかねていた。
別離とか恐怖とかというような共通の感情はあったが、しかし人々はまだ個人的な関心を第1列に置いていた。
「ペスト」111ページ
日本でも毎日、感染者が100人を超えているのに、休みだからと出かけたり、旅行したりする人間が後を絶たない。
カミュのペストは。本当に今書かれたもののようだ。
ペスト 中編3
そして次に起こるのが「犯人捜し」だ。
大部分の物は、彼らの習慣を妨げたり、あるいは彼らの利益を冒す事柄に対して、特に敏感であった。
彼らはそのために、じれたり苛立ったりするものの(略)彼らの最初の反応は、例えば、施政当局に罪を着せることであった。
「ペスト」111~112ページ
ペストは(コロナも)誰かがもたらした災厄であり、対応がまずかったと政府を責める、こいつが悪いと罪を着せるようになるのだ。
ペスト 中編4
これがこの「パンデミック中編」の人間の感情の主なものだろうか。
この時期、まだまだ人々はこんな感情で生きている。
この時、多くの人の感情はこれだ。
それでも多くの人は、ペストがやがて終わり、自分は家族もろとも助かるであろうと、相変わらず望みをかけていた
したがって、彼はまだ何をしなければならぬ・・・という必要も感じていなかった。
「ペスト」135ページ
・・・・2020年のコロナと何か違うところはあるだろうか?
何度も言う。これは小説の中のエピソードなのだ。
そしてペストは日を追うごとにひどくなり、物語はいよいよ最終章に向かう。
カミュの「ペスト」からコロナの行方と終焉を読む 後編
ここからの描写が物凄い。
いわゆるペストがピークになったときだ。
ここは本から抜粋すると、大変な量になるのでまとめて書かせてもらう。
・・・もう日常に死が入り込み、救急車のサイレンは毎日鳴り響く。
医者はもはや役に立たない。
医者の主な仕事は直すことではなく、ペストと宣言することなのだ。
後は武装したものが患者を連行していく。
公共の建物は、もはや余すところなく収容所になり、隔離小屋になる。
失業者が町にあふれるが、案外仕事はある。
死体を運んだり、ペスト患者を運ぶ「ペスト最前線」の仕事だ。
この仕事につくと、もれなくペストに感染するが、生活に困った人間があふれていたので、人手不足になることはない。
埋葬もいつもの手順では、全く間に合わなくなり、しまいには棺桶すら消毒して使いまわすようになる。
埋葬のための棺桶ではない。
死体を入れて運ぶための入れ物だ。
死体は運んだ後、まとめて土に埋められる。
しまいには増えすぎた死体を、専用の列車で貨物のように運ぶようになり、一気にまとめて焼却処分になる。
家族は埋葬からどんどん遠ざけられ、葬儀はますます簡略化していく。
だが人々は、もはや絶望に慣れきってしまい、この死者のありさまを悲しいなどと思わない。
知人がどう埋葬されたか、自分がいずれどう埋葬されるか考えるよりも、食糧不足が深刻化しているので、そっちの手続きの方が煩雑で気を取られるようになったのが「幸い」だ。
これ以上死者が増えてくるようだと、海に死体を捨てるようになるだろうと、リウー(主人公の医者)が覚悟したときに、ようやくペストは終結に向かうのだ。
ペストに限らず、パンデミックは今に始まったことではない。
ずっとこの「前編・中編・後編」みたいなことを、繰り返していたのだろう。
日本でも(世界でも)この轍を踏まないことを祈るばかりだ。
カミュのペストからコロナの行く末・終焉を考える まとめ
ネコ缶評価
今ネコ缶の感覚では「中編」に日本はいると思う(2020年4月)。
このまま最悪の状態(後編)に行くのか?その前に特効薬ができるのか?
ちなみに、カミュ「ペスト」のパンデミックは約1年で終結している。
ホッとする人もいるかもしれないが、オランでは
「電車も船も郵便も止めた」
「町から出ようとした人間は、容赦なく撃たれた」
という前提を、忘れてはいけない。
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