以前、こちらの「ペスト」を読んだ
カミュの「ペスト」は、架空の町「オラン」が舞台。
オランに閉じ込められた、6人の男たちの行動や内面を描いた、フィクションとは思えない素晴らしい作品だった。
今回ご紹介するデフォーの「ペスト」は、1665年のロンドンが舞台だ。

この年はロンドンでペストが大流行。
パニックになったロンドンの様子を、克明に記録したものだ。
300ページを超えるルポは、読みにくいところもある。
でも、パンデミックのロンドンの、真実を告げる資料として引き込まれてしまう。
どんなことが当時起こっていたのだろうか?
詳しくみていこう
Contents
ダニエル・デフォー「ペスト」 あらすじ

1665年のロンドンは、恐ろしい病気が大流行していた。
恐ろしい病気・・それは「ペスト」
紀元前の昔から、ヨーロッパを恐怖のどん底に突き落としてきた恐ろしい伝染病だ。
18世紀では、原因も正しい治療法も解っていなかったペスト。
ロンドン市民はペスト禍の中、どう行動し、どうやって日常生活を送っていたのか?
フィクションではない、リアルなレポタージュ。
ダニエル・デフォーの、冷静な観察眼が冴える!
ダニエル・デフォー「ペスト」 感想

デフォーの生きた17世紀、調査した資料をまとめて、きちんとした文章にするのは、想像を絶する大変さだったろう。
デフォーの「ペスト」も、編集がちょっと甘い。
章ごとに区分けされてないし、似たような内容が2度出てくることもあるので、読みやすい訳では決してない。
でもついつい読んでしまう。
それは2020年の日本も、1665年のロンドンも、未知のウィルスに翻弄され、パニックに陥ってる点が全く同じだからだ。
パニックに陥りながらも、なんとか生き延びようとあがくロンドン市民。
この混乱に乗じて、ひと儲けをたくらむ詐欺師。
町の混乱を抑えようと、必死になる政治家・・・・。
もう全くコロナ禍の世界と同じである。
未知のウィルスに対する、人間の対応の様子はカミュのペストでも詳しく書かれている。
デフォーでもカミュでも、パンデミックにおののく人間の姿が、2010年と全く同じところを見ると、本当に人間の本質は変わらないという事が解る。
コロナの行く末を占う点から、デフォーのペストもみていこう。
ダニエル・デフォー「ペスト」 読みこなしポイント1 人の自由を制限することの難しさ

17世紀でも、伝染病患者に近寄らないほうが安全なことは解っていた。
なのでペスト禍のロンドンでは、病人が出たら家に閉じ込める。
家の扉は閉められ、監視人には付きまとわれ、家から出ることも出来ない。
家人のうちの健康者は、よそに行くことさえできたら、命は助かったかもしれないのだ。
デフォー「ペスト」P79~80
病人だけを隔離すればいいのだが、なんと健康な家族も一緒くたに封鎖。
それでは一家全滅になる気がするが、それでも病気が流行るよりはマシと考えたのか。
これはかなりの苦痛で、家を見張っている人にわいろを贈ったり暴力をふるったり、ペスト患者を隠す人が多かった。
自由を制限されることはやっぱりキツイ。
家屋封鎖に関しては、再三「ペスト」の中で書かれていた。
よほど思うところがあったんやろうな・・・。
ダニエル・デフォー「ペスト」 読みこなしポイント2 病が長引くと気は緩む

ペストの流行も少し収まり、かかっても治る人が出てきた折、「もう大丈夫」とばかりに警戒を緩めるロンドン市民。
気を緩めるなと怒鳴る医者たち。
これも全く2020年と同じである。
死亡率の急激な減少が報じられると、もう大丈夫という考えがロンドンじゅうに広まった。
(略)
医者たちはもちろん、こうした浅はかな考え方に対しては、全力をあげて警戒した。
(略)
しかし市民はなんと説得しても、死の危険は去ったという事以外は何も理解しようとしなかった。デフォー「ペスト」P360~P361
そしてまた患者が増えて、また警戒して・・・を繰り返したところまで同じ。
ダニエル・デフォー「ペスト」 読みこなしポイント3 失業者は増える

ペストの折、必需品を扱っていない商売はすべて上がったりとなった。
あらゆる商売が止まり、雇用は停止された。
特に、不要不急な部分の製造に、かかわっていたものが参った(リボン・金銀のモール・婦人用帽子、靴、手袋・家具など)貿易も完全に止まったので、税関史など貿易関係者や、海運業に携わるものも失業。
下僕や女中なども・・・デフォー「ペスト」P156~157
でも心配ない。
なぜなら、ペストの最前線となる仕事に就くことになるからだ。
もう少しコロナが長引いたら、失業者はコロナの最前線の仕事につくのやろか・・・。
ダニエル・デフォー「ペスト」 読みこなしポイント4 物流は止めるな!

感心したのが、ペスト禍のロンドンに食料が十分にあったことだ。
(政府は)市場の自由を維持するための条約が、守られているかどうかを確かめることに注意していた。
(その結果)パンはいつも豊富に、しかも平常通り安価で手に入れることができた。
また、どんな種類のものでも、食料品の不足を見ることはなかった。デフォー「ペスト」P298~P299
むしろ、十分な準備もなく、最後の方でロンドンを逃げていった人たちが、行き倒れになったり餓死していた。
ペスト禍の当時、物流の流れは止まっていなかったのだ。
(市長がそのあたりを死守していた)
コロナ禍の今も、食料や日常の必需品はなんとか途絶えていない。
物流を止めてはいけないという、政治家の決死の覚悟がうかがえる。
ダニエル・デフォー「ペスト」 読みこなしポイント5 デフォーの冷静な観察眼

ラスト近くまで読むと、改めてデフォーの観察眼に舌を巻く。
ペストがやんだのだから、いがみ合いの根性も、互いに罵り合う意地汚い精神も、それと一緒にきれいにやんでおけばどんなによかったのかと思う。
(略)ペスト流行以前、わが国の平和をみだしていた現況こそは、まさしくこのいがみ合いの精神だった。
デフォー「ペスト」P372~P373
そう、「ペストが終わってからのトラブル」もキチンと書かれているのだ。
ペストが猛威を振るっていた時は、非常時とあり、助け合う人も多かった。
キリスト教が主流だった17世紀のロンドン、教派の派閥同士もあったようだ。
でもペストのパニックで、助け合っていたのに、終わったとたんにまたいがみ合いだす。
ここをデフォーは、かなり厳しく書いている。
コロナ禍の折、平時はいがみ合っていた人たちが、手を取り合っているかもしれない。
でも収まったときもそうなっているか・・・。
願わくば、そのままでいてほしいものである。
ダニエル・デフォー「ペスト」 まとめ

ネコ缶評価
章ごとに、まとめて書かれているわけではない。
段落わけもあまりされていないし、似たような話が出てくることもある。
というわけで、デフォーの「ペスト」は、読書慣れしていない人にとっては、読むのに骨が折れる本かもしれない。
とはいえ、こうした「史実」を伝えてくれる文献は本当にありがたい。
カミュの「ペスト」を読んだ人も読まなかった人も、コロナがこの先どうなるか知りたい人はぜひ読んでみてほしい。
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