タイトルを見てこう思わなかっただろうか。
しばし考え、本の表紙をじっくり眺めてようやく気付いた。
ジェリーフィッシュってクラゲの事なん?
今回ご紹介する「ジェリーフィッシュは凍らない」は、直訳すると「クラゲは凍らない」・・・という話なのだ。
と思う方も多いかもしれないが、結構深いタイトルなのだ。
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Contents
市川憂人「ジェリーフィッシュは凍らない」あらすじ
業界世界最大手・UFA社の近未来型小型飛行船・ジェリーフィッシュは試験飛行を行っていた。
このジェリーフィッシュの最新版は、UFA社肝いりの新作。
期待の大きいものだった。
そこに乗っていたのは、発明者のファイファー教授を含めた男女6名。
特に変わったこともなく、穏やかに試験飛行は進み、もうすぐ帰還の途に就くはずだった。
ところがジェリーフィッシュは突然捜査不能になり、雪山に不時着を余儀なくされる・・・。
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ある日、A州の警察に一本の連絡が入った。
駆け付けた捜査隊が見たものは、全焼したジェリーフィッシュと数名の遺体。
最初はジェリーフィッシュのシンプルな墜落事故かと思われた。
だがその考えはすぐに覆される。
遺体のうちの一体は、首と手足が切断されていたのだ!
ジェリーフィッシュの中で、一体何が行われていたのか?
そして遺体をバラバラにした犯人は、雪深い山の中をどうやって逃げていったのか?
おまけになぜかこの事件には、U国の空軍までが絡んでいて・・・・。
第26回・鮎川哲也賞受賞作品の本格ミステリー!
市川憂人「ジェリーフィッシュは凍らない」感想
読み進めていくとこう思う。
雪山の中、ジェリーフィッシュに閉じ込められ、次々何者かに殺されていく男女6人・・・・
これはまさに「クローズドサークル」の雄「そして誰もいなくなった」。
なるほどなるほど、さすが鮎川哲也賞と思い、さらに読み進めていくとまたしてもこう思う。
⇒「十角館の殺人」詳しくはこちら
詳しくは言えないが、トリックのキモがそっくりなのだ。
とはいえ、この2作を合わせただけの話では決してない。
かなりSFチックで、不思議な話に仕上げてくれているのだ。
正直、ネコ缶はクローズドサークルものはもう出尽くして、新しいトリックはないと思っていた。
だがそこに「ジェリーフィッシュは凍らない」は、また新しいトリックを持ち込んでくれたのだ。
こんなに奇抜で、しかも完璧なトリックなものがまだ思いつくなんて、ネコ缶は少々感動してしまった。
だが難点がこれ。
なので、ミステリーファンは「このあやしい人物の動機とトリック」を考えながら読もう。
ジェリーフィッシュは凍らない 見どころ1 ロジックの奇抜さ
21世紀に入って22年。
そこに「飛行船が舞台」のクローズドサークルというだけでも度肝を抜かれる。
だが「ジェリーフィッシュは凍らない」は、このひとひねり加えている。
青酸カリ・・・もうこれだけで怪しいにおいがプンプンするよな。
2022年現在でも、聞いたことのない超科学的なことが、まことしやかに設定されている。
かと思いきや、時代設定はなんと1980年代と過去の事。
だが後半で明らかになる、風船部分に何かを塗り付ける目的とトリックなどは、もう完璧にSFの世界。
国もU国とかJ国と書かれていて、まるで星新一の小説みたいだ。
飛行船のマニアックさとあいまって、科学が苦手な人はこれだけ聞くとおじけづくかもしれない。
でも科学の知識はなくても十分楽しめるで!
なので科学の面は「ほお~」と感心しながら、謎解きに集中して読もう。
ジェリーフィッシュは凍らない 見どころ2 マリアと連のコンビがナイス
このミステリーを追いかけるのは、マリア警部とその部下・蓮。
マリア警部は真っ赤な髪がチャームポイントの、美人でスタイル抜群な女性。
少々ガサツで身だしなみは今一つ。
基本的な知識も怪しいけど、刑事としての勘は抜群の30歳。
そんな個性的なマリアのフォローをするのは、J国(日本やろうな)の冷静沈着な黒髪の20代後半イケメン・九条漣(レン)。
このコンビのバランス・・・・真っ先にネコ缶はこう思った。
大ベストセラーにもなった「謎解きはディナーの後で」もそうだが、勢いがあり読みやすい男女ペアの探偵(警察)もののお手本のようだ。
蓮は朝が弱いマリアのためにモーニングコールをし、車でお迎えに上がるレン。
「・・・もしもし・・・」
「マリア、起きてください。仕事です。現場へ向かいますよ」
(略)
「車で向かいます。
玄関の前にいますので20分以内に出てきて下さい」「ジェリーフィッシュは凍らない」p25
キャリアウーマンの女性なら、憧れそうなシチュエーションだ。
おまけに漣は、マリアのために朝食も準備している。
「さ、行きましょ」偉そうに顎をしゃくるマリアのひざ元へ、漣はサンドイッチの紙袋を載せ、愛車のキーを回した。
「ジェリーフィッシュは凍らない」p26
科学が苦手なマリアのために、ジェリーフィッシュの会社に聞き込みに行った際には講釈もしてくれ、実に優秀な漣。
たまに嫌味や皮肉も言うが、どんなにマリアが威張ってワガママにふるまっても、漣はマリアにとても忠実なのだ。
「管轄ギリギリじゃない」(略)「後10キロか20キロ北に堕ちてくれれは良かったのに、迷惑な話だわ」
「日頃の行いの賜物でしょう」(略)ふん、とマリアは鼻を鳴らした「ジェリーフィッシュは凍らない」p27
「レイトン教授」とこのカトリ―エイルとノア・モントール、「謎解きはディナーの後で」の麗子と影山みたいな感じだ。
このコンビの雰囲気は恋人同士そのもので、あこがれる女性も多かろう。
彼らのおかげで、一見難しい科学のミステリーが読みやすいものになっている。
そしてドロドロしがちなクローズドサークルものだが、それもさわやかな感じになっているのだ。
本格派ミステリー初心者の方にも、入りやすい雰囲気になっているので、ぜひ読んでみよう。
市川憂人「ジェリーフィッシュは凍らない」まとめ
ネコ缶評価
鮎川哲也賞を受賞するだけあって、内容はまさしく本格派。
徹底的に組み立てられたロジックは、デビュー作とは思えない。
難を上げるとすればこの2点。
犯人の動機に共感できない事
この場合、動機に恋愛感情を絡ませたほうが、より物語に深みが増したように思う。
とはいえ後半の謎解きは圧巻。
マリア&漣コンビは続くようなので、次回にも期待やな!