今回ご紹介する「暗い抱擁」は、メアリ・ウエストマコットシリーズの第5作目だ。
ところで、メアリ・ウエストマコットの一番人気作と言えば「春にして君を離れ」だ。

この作品に比べて、「暗い抱擁」は聞いたことがなかったし、正直あまり期待せずに読んでみたら・・・・
内容のとんでもない深さに驚愕した。
しかも構成が、軽いミステリーにもなっている。
ではいってみよう!「暗い抱擁」!
Contents
アガサクリスティ「暗い抱擁」あらすじ

事故で体が不自由になってしまったヒュー。
不毛な恋にもピリオドを打ち、療養のためにセント・ルーに移転する。
そこは近々総選挙が行われるところ。
ヒューの世話を焼いてくれる義姉テレサは、家事の傍ら、忙しく選挙の手伝いをしていた。
ある日、ヒューは保守党候補のゲイブリエルと会う。
先の大戦でヴィクトリア勲章を取った34歳の男で、お世辞にもイケメンとは言えないし、紳士でもなかった。
政治家になるのも、崇高な目的があるわけでもなく、ただの楽な仕事口と言い、選挙はお祭り騒ぎと言い放つ。
そして何より彼は、焼けつくような階級コンプレックスを内面にかかえていた。
だがパフォーマンス能力に優れていたゲイブリエルは、不思議と人を惹きつけ、セント・ルーの人気者となっていく。
そんな中、ダンスパーティが開催され、ゲイブリエルは、セント・ルーの貴族の娘イザベラとダンスをする。
そこで一体何が起こったのか?
その後、ゲイブリエルは当選をしたのに、イザベラと駆け落ちをしてしまうのだ。
何もかも捨てた二人は、幸せになったのだろうか。
ゲイブリエルは階級コンプレックスを、お姫様のようなイザベラを得ることで、克服することができたのか?
ラストに注目だ。
アガサクリスティ「暗い抱擁」感想

タイトルにも入れたが、「暗い抱擁」はテーマがてんこ盛りだ。
格差社会とその底辺にいる人物のコンプレックス、愛、共依存、選挙の実態、シェイクスピア・・・・。
ネコ缶も書きたいことはいろいろあるが、ゲイブリエルという人物に絞って書いてこうと思う。
「暗い抱擁」見どころ ゲイブリエルの魅力とは

ゲイブリエルは、おおよそモテそうな男ではない↑違うで。
ハッキリ醜いと書いてあるうえ、背も低く、足がどうも悪そうなのだ。
だがこの男、かなりモテる。
「暗い抱擁」の出だしはゲイブリエルの臨終から始まるのだが、そこにいたのは彼を崇拝する女性・マダム・ユーグービアンだ。
ミリーという人妻も出てくるが、この女性も彼の強烈なファンになる。
そのうえセント・ルーの、お城のおばあさま方も、結局彼を認めてしまう。
醜いけれども人を、女性を魅了してしまう男性というのは確実にいる。
遠藤周作の書いた「マリーアントワネット」のカリオストロという男も、相当醜い。
でも盗みの計画をしている時の彼には、マリーが思わずみとれたとある。

女性を惹きつけるのは、プラスでもマイナスでも、エネルギーの量ではないかとネコ缶は思うのだ。
エネルギーの多い男性は、女性を惹きつける。
なぜかわからないが「どうしようもなく」惹かれてしまうのだ。
ゲイブリエルのエネルギーは、かなり屈折していたが、相当のものだったろう。
長年培った階級コンプレックスやしな
そのギラギラした何かが「どうしようもなく」人を惹きつけるのではないか・・・と思う。
「暗い抱擁」見どころ コンプレックスを克服させる愛

今回のテーマは、おそらくこれではないかと思う。
「暗い抱擁」は戦後すぐに出版されているが、イギリスにはまだまだ根強く格差社会が残っていたのだろう。
ゲイブリエルは、その底辺ともいえるような環境で育ち、貴族たちを激しく憎んでいる。
そしてお高くとまった彼らを、そこから引きずりおろしてやろうと思っているのだ。
ああいった高慢ちきな、上流婦人というやつがおれは無性に憎いんだ。
(略)奴らにとっては、おれはいつまでも虫けらさ!「暗い抱擁」P89
その引きずりおろす対象になったのがイザベラだ。
お城で王女のように育てられ、祖母や叔母にかしずかれている彼女に対し、屈折した思いを持つゲイブリエル。
そんなゲイブリエルを、なぜか受け入れてしまったイザベラ・・・。
そのまま行けば、イザベラは城で従兄と幸せに暮らせたのに、なぜゲイブリエルを選んだのか?
残念ながら、そこは一切書かれていない。
なぜ選んだのかは解らないが、ラストを見ると、間違いなくイザベラはゲイブリエルを愛していた。
そこに気づいたゲイブリエルは、その愛で最終的にコンプレックスをはねのけることができる。
その後、新しい人生(ファザー・クレメント)を歩くことができたのだ。
イザベラ側から何も書いていないが、ここまで人を変えることができたのは、相当大きな愛情だったのだという事が解る。
これが「暗い抱擁」の愛のテーマだったのではないだろうか・・・とネコ缶は推測する。
アガサクリスティ「暗い抱擁」まとめ

ネコ缶評価
ものすごく引き込まれる内容だった。
10点にしても良かったのだが、マイナス0.5の理由がこれ。
早川書房で読まれる方は、裏表紙のあらすじを読まへん事。
そしてタイトル(暗い抱擁)を、気にせーへんことをおすすめするで!
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