アガサクリスティは時々、「国家の○○もの」とかスパイものとかを書く。
典型的なのは「ビッグ4」
この作品は、読んでみるとかなりびっくりする。
ポアロがいつになく体を使ってるし、相棒のヘイスティングスも結構危ない目に合ってるのだ。
他にも「愛国殺人」もその類だろうか。
ビッグ4ほどではないが、国家の重要人物が出てきて暗躍しているのだ。
そして今回ご紹介する「鳩のなかの猫」もサスペンスもの。
だがクリスティ・ポアロものの、サスペンスの中ではの一番の完成度だ。
「革命」を「億単位の価値のある宝石」と「名門女子校」という、消化不良を起こしそうな素材をうまく掛け合わせている。
そんな貴重なサスペンスもの、「鳩の中の猫」いってみよか!
Contents
アガサクリスティ(ポアロ)「鳩のなかの猫」あらすじ

ラマット国の若き王・アリは困惑していた。
今までの、悪しき専制主義的な国をやめて、民主主義な国にしようと力を尽くしてきたのに、なぜか国民はついてきてくれない・・・。
それどころか部下たちも反乱を起こし、革命直前まで国は乱れていた。
命の危険を感じたアリは、唯一の腹心であり友人のパイロット、ボブ・ローリンスンと国を捨て逃げる覚悟を決める。
その時アリ国王は、唯一持ち出せる75万ポンドもの小さな宝石を、ボブに渡してこう言った。
なんとか無事に持ち出して、奴らに渡さないでほしい・・・。
困り果てたボブ。
時間もないうえ、盗聴器を仕掛けられているし、尾行もされている。
そんな中、知恵を絞りだして、なんとか逃げ出す寸前に、とある場所に隠すのだ。
だが結局、アリとボブは脱出の際、飛行機事故で死んでしまう・・・。
それから2か月後。
名門女子校の誉れ高いメドウバンク校で、新人の体育教師が殺されるという事件が起こる。
教師連続殺人事件がそこから始まり、しまいにはメドウバンク校に入学してきた、ラマットの王女とされる少女の誘拐事件まで起こってしまう。
この事件は、ラマット国の革命と何か関係があるのだろうか?
そして75万ポンドもの宝石は、一体どこに隠されているのか?
メドウバンク校から抜け出してきた、少女の依頼でポアロが動く。
アガサクリスティ(ポアロ)「鳩のなかの猫」感想

アガサクリスティのサスペンスものは、実はあまり評価が高くない。
「ビッグ4」も「愛国殺人」も、あまり高い評価はつけへんかったし。
でもこの「鳩のなかの猫」は、アガサクリスティのサスペンスものでは、成功しているといっても良い部類に入るだろう。
それはモチロン、サスペンス要素とミステリー要素が上手くミックスされているという、一言につきるのだが、今回はそこを詳しくみていこう。
サスペンスとミステリリーが、上手くミックスされている1 宝石というキーワード

革命の際に持ち出したとされる、75万ポンドの宝石はいったいどこに隠されているのか?
これが終盤までの、メインテーマになってくる。
もちろん殺人も起こっているので、犯人は誰なのか?という事もテーマなのだが、今回の殺人事件の動機は、これ以外に思いつかない。
なので犯人に思いを馳せながら、シンプルに宝石の行方を、ハラハラしながら考えることができる。
そしてその宝石は、悲劇の若き王が決死の覚悟で持ち出したもの。
なんとかして、悪い人の手に渡らないように・・・と祈りながらページをめくること請け合い。
ちなみに「鳩の中の猫」が書かれたのは1959年。
ポンドは1949年~1967年まで、なんと1ポンド約1008円だった。
なのでこの75万ポンドは、1959年の日本円で、7億5600万円。
それは殺人事件も起ころうというものだ。
サスペンスとミステリーが、上手くミックスされている2 後継者は誰に?

「革命」と「宝石」と「名門女子校」という、一歩間違えたら消化不良を起こしそうな素材を、きちんと料理したのはさすが女王。
でも「鳩のなかの猫」は、それだけではない。
「後継者選びのむつかしさ」などという、普遍のテーマも良いスパイスとして、扱っているのだ。
名門女子校の校長、オリノア・バルストロードが、次の校長を誰にするかで逡巡する場面がよく出てくる。
・・・でもそれでいいのか?
私がやってきた事を、ただそのまま、やるだけになるのではないか?
いっそこの人に託そうか・・・。
でも経験がなさすぎだ・・・反対する人もいるだろうし・・・。
後継者選び・・・これはある一定の地位にある人間が、必ずぶち当たることだ。
その時の悩みの感情を、実に解りやすく書いてくれていて、共感できる人も多いのではないだろうか。
ちなみにこの女子校の校長、オリノア・バルストロードは、しっかりしたリーダーシップを持った、トップの器のある人だ。
アガサクリスティのキャラでは、珍しい人かもしれない。
アガサクリスティ(ポアロ)「鳩のなかの猫」まとめ
ネコ缶評価
かなり面白く読めた。
革命とダイヤと殺人のみだったら、ちょっと退屈な展開になったかもしれないが、舞台を女子校にしたことで、さまざまな要素をミックスできたように思う。
これが「鳩のなかの猫」なんかな~と思ったで。
とはいえ、ポアロの登場が物凄ーく遅かったことと、第2の殺人事件の動機がちょっと「え?」と思ったこと。
これが☆マイナス1.5。
とはいえ、最後の最後で、アリ国王の努力が報われたのは、ホッとしたで!
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